・・・ そして終には、教会の説教台に立って、幾百かの聴衆を前にして居ると同様に、手を動かし眉をあげて、いよいよ声高に云うのを見て居ると、私は何よりも先ず激しい恐怖に捕われて仕舞った。 生れて始めて斯う云う処に来た事丈でさえ異った気持にされ・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・そのときクロポトキンは、ツルゲーネフの諸作品の重要なモティーヴが殆ど皆恋愛におかれていることに聴衆の注意をひき「ルージン」の扱い方では作者にすっかり同意を示した。クロポトキンは、語調に熱さえふくめてこう云った。「マッジニイとラサールは同じよ・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・八十五歳という長寿を保ったこの漢学者の生涯の時期は、日本では、有名な元禄時代の商人興隆時代、文化の華やかな開花の時代、文学の方面では芭蕉、西鶴、近松門左衛門などがさかんな活動をとげた時代と、流れを一つにしている。経済の中心が町人の階級にうつ・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・ 前述の先輩達が順当に長寿したら、道長とてもあの目覚しい栄達は出来なかったであろう。それを、嗣ぐべき人が相ついで世を去った為道長は、あさましく夢なのどのようにとりあえず、なったのだ。と。 短い小説を書こうとして居るのに、どう・・・ 宮本百合子 「余録(一九二四年より)」
・・・それよりも、初めから落ち着いて宣伝のできるように、どこかに会場を借り聴衆を集めて演説するとする。父の情熱は純粋であり、考えも正しいが、しかし残念ながら極めて単純である。情熱、確信という点においては聴衆以上であるとしても、話すことの内容は反っ・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫