・・・そのなかには、特攻隊へ連れ出された人もあったろう。徴用でいろいろな職場で働き、学徒動員で、生涯の目標を挫折された人も少くなかった。家を焼かれ、肉親と生活の安定を失った人も沢山あるだろう。めいめいの人生に、深い深い傷を受けて、そうして戦は終っ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・特攻隊に参加はしなかったが学徒動員と徴用とによって過去四、五年間日本の全ての若い人が動員された。そして突然、自分の生活の道を変更させられ、何年間か一貫した目的を以ていそしんでいた学業や仕事を放擲させられ、一つの鍋の中に打ち込まれた豆のように・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・兵隊、徴用にゆくか、監獄にゆくか、二つに一つしかないような有様であった。各自の精神がどんなにそれを軽蔑していようとも強権と肉体への暴力で、特定の権力と目的とにしたがえさせられた。本郷の帝国大学のある本富士警察の留置場、学校の多い西神田署の留・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・文学は文学そのものとしての存在を抹殺されたし、文学者は戦時徴用者として文学の能力を戦争宣伝に使われたことをよもや否定する人はないでしょう。このことは、洋服屋が徴用されて平和のための衣服の製作をやめ、殺されなければならない人の服を縫わされたこ・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・昭和十四年までは労務動員計画と呼ばれていた労働力に対する統制が、十七年からは、国民動員計画と範囲を拡めた。徴用がどしどし行われるようになって、男子の就業禁止の職域範囲が拡がった。企業整備によって自分の店や勤め先を失った男達は、みんな徴用され・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・二年のとき数学上の意見の違いで教師と争い退校させられてから、徴用でラバァウルの方へやられた。そして、ふたたび帰って帝大に入学したが、その入学には彼の才能を惜しんだある有力者の力が働いていたようだった。この間、栖方の家庭上にはこの若者を悩まし・・・ 横光利一 「微笑」
・・・その他正直者の重用を説き、理非を絶対に曲げてはならないこと、断乎たる処分も結局は慈悲の殺生であることなどを力説しているのも、目につく点である。我々はそこに、精神の自由さと道義的背景の硬さとを感じ得るように思う。 やや時代の下るもののうち・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫