・・・が、わたしを造り出したものは必ず又誰かを作り出すであろう。一本の木の枯れることは極めて区々たる問題に過ぎない。無数の種子を宿している、大きい地面が存在する限りは。 或夜の感想 眠りは死よりも愉快である。少くとも容易には・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・尤もこういう痼癖がしばしば大きな詩や哲学を作り出すのであるが、二葉亭もまたこの通有癖に累いされ、直線に屈曲を見出し平面に凹凸を捜し出して苦んだり悶いたりした。坦々砥の如き何間幅の大通路を行く時も二葉亭は木の根岩角の凸凹した羊腸折や、刃を仰向・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・ 文学のことは年齢によってのみはかることは出来ないが、しかし、文学がその作家の置かれた環境と切り離して考えられない関係がある限り、環境は時間によって変化するので年齢はその作家の人間にも、またその作家の作り出す文学にも変化を与えるのは否まれな・・・ 黒島伝治 「短命長命」
・・・ピクニックよりもダンスよりも、婦人何々会で駆け回るよりもこのほうがはるかに身にしみてほんとうにおもしろいであろうということは、「物を作り出すことの喜び」を解する人には現代でもいくらか想像ができそうである。 ついでながら西洋の糸車は「飛び・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・ これに反して拙劣なるモンタージュは、動的な画像の単調無味なる堆積によってかえって観客のあくびを促すような静的なものを作り出すことも可能である。下手な剣劇の立ち回りがそれであろう。 エイゼンシュテインは、日本の文化のあらゆる諸要素が・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ 欧州のどこかの寄席で或るイタリア人の手先で作り出す影法師を見たことがある。頭の上で両手を交差して、一点の弧光から発する光でスクリーンに影を映すだけのことであるが、それは実に驚くべき入神の技であった。小猿が二匹向かい合って蚤をとり合った・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・その世界では「作り出す」「生み出す」ということだけが意義があり、それが唯一の生きて行く道であるように見えた。そうして、日々何かしら少しでも「作る」か「生む」かしない日は空費されたもののように思われたのである。もちろん若いころには免れ難い卑近・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・従って生活感情の真髄が狭い心の中の狭い体験が多い関係から、女性の作り出す創作には本当にユニックなものが乏しい。類型的でなくなる努力、淡泊さ、見栄え等を本当のものにする精進、性の上から来る色々の欠陥と不自由、それから脱出する苦悶――女性は芸術・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・けれども、毎日が、そして現実が不如意だからといって、決して自分の生活に作り出すことも出来ず、取り入れることも出来ないものに気をとられて、その気をまぎらしてゆくことが、はたして青春の貧困を満すことでしょうか。そうは思われません。わたしたちはも・・・ 宮本百合子 「自覚について」
・・・ 彫刻なども、内地人が入ってからは、金の為に粗末なものを沢山に作り出すようになりましたので、真の技倆は悪くなってしまいました。それでも、家が豊で彫刻によって生きて行く必要のない人には、矢張りよい技倆を持った者があります。斯様なわけで・・・ 宮本百合子 「親しく見聞したアイヌの生活」
出典:青空文庫