・・・という小品の中に、港内に碇泊している船の帆柱に青い火が灯っているという意味のことを書いてあるのに対して、船舶の燈火に関する取締規則を詳しく調べた結果、本文のごとき場合は有り得ないという結論に達したから訂正したらいいだろうと云ってよこした人が・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・T氏の傘を見て This no good. というと、また一人が This good, but that the best. と訂正した。 いわゆる日本街を人力車で行った。道路にのぞんだヴェランダに更紗の寝巻のようなものを着た色の黒い女・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ 下手な論文を書いて見ていただくと、実に綿密に英語の訂正はもちろん、内容の枝葉の点に至るまで徹底的に修正されるのであった。一度鉛筆で直したのを、あとで、インキでちゃんと書き入れて、そうして最後に消しゴムですっかり鉛筆を消し取って、そのち・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・物々しい番兵の交代はベルリン名物の一つであったが、実際いかにも帝政下のドイツのシンボルのように花やかでしかもしゃちこばった感じのする日々行事であった。この花やかにしゃちこばった気分がドイツ大学生特にいわゆるコアー学生の常住坐臥を支配している・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・ 自分の研究をする自由は得たが、実験を始めようとしても器械や道具が手に入れられなかった。定性分析のコースを一学期やらせてもらったくらいのものであった。しかし読物には事を欠かなくてマクスウェルの電磁気論や、マクスウェル及びヘルムホルツの色・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・自分は上野の戦争の絵を見る度びに、官軍の冠った紅白の毛甲を美しいものだと思い、そしてナポレオン帝政当時の胸甲騎兵の甲を連想する。 銀座の表通りを去って、いわゆる金春の横町を歩み、両側ともに今では古びて薄暗くなった煉瓦造りの長屋を見る・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・になるようなものの言い方をした。自分はその場で重吉の「また帰ってきます」を「帰ってくるつもりです」に訂正してやりたかったけれどもそう思い込んでいるものの心を、無益にざわつかせる必要もないからそれはそれなりにしておいて、じゃあのことはどうする・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・いわんや二三日前まで『文学評論』の訂正をしていて、頭が痺れたように疲れているから、早速に分別も浮びません。それに似寄った事をせんだってごく簡略に『秀才文壇』の人に話してしまった。あいにくこの方面も種切れです。が、まあせっかくだから――いつお・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・ オオビュルナン先生は最後に書いた原稿紙三枚を読み返して見て、あちこちに訂正を加え、ある詞やある句を筆太に塗沫した。先生の書いているのは、新脚本では無い。自家の全集の序である。これは少々難物だ。 余計な謙遜はしたくない。骨を折って自・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・明治二十九年草稿明治三十二年訂正 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫