・・・シチェードリンが、十九世紀中葉の帝政ロシアの暗い空気に抗して、地方貴族の生活の腐敗をあますところなく描き出すことで、より健全な人間生活への翹望を示していることは、訳者の序文によって明らかだし、作品そのものが何よりも熱く語っている。ロシア文化・・・ 宮本百合子 「翻訳の価値」
・・・当時、帝政ロシアの文壇にはトルストイ、ツルゲネフ、アンドレーエフ、チェホフなどという世界の文学の花形が居ました。しかし、ゴーリキイの出現はロシアの文学にとってのみならず、当時の世界文学にとって一つの新しいおどろきとよろこびでした。何故なら、・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイについて」
・・・それを知らずにリュシアンはかわって反感をもたれてる〔欄外に〕 マクシミリアン・ラマルク 1770―1832 はナポレオン帝政時代の名将軍 七月帝政時代にも反対派代議士として有名 コレラで死 葬式が暴動のキッカケとなった ジャンヌ一揆・・・ 宮本百合子 「「緑の騎士」ノート」
・・・ ここを見ると、帝政時代のロシアが政治犯をどんなに虐待したかが、アリアリわかる。写真を四方八方から撮って、詳細極まる人相書をこしらえているばかりではない。鉄の手枷足枷まではめたレーニンが、一八九五年にまだ大学生で政治犯としてシベリアに送・・・ 宮本百合子 「ロシアの過去を物語る革命博物館を観る」
・・・ つまりとてもコスイ、油断がならぬと云うわけだ。もっともこのポーランド人の猾さには、ながい政治的な理由が背景となっている。 帝政時代のロシアはポーランドを政治的にも経済的にもひどくいためつけた。ポーランドのプロレタリアートは被圧迫民・・・ 宮本百合子 「ワルシャワのメーデー」
・・・当り前の分担事務の外に、字句の訂正を要するために、余所の局からも、木村の処へ来る書類がある。そんなのも急ぎでないのはこの中に這入っている。 書類を持ち出して置いて、椅子に掛けて、木村は例の車掌の時計を出して見た。まだ八時までに十分ある。・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・わたくしは此にこれを訂正して置きたい。 香以伝の末にわたくしは芥川龍之介さんが、香以の族人だと云うことを附記した。幸に芥川氏はわたくしに書を寄せ、またわたくしを来訪してくれた。これは本初対面の客ではない。打絶えていただけの事である。・・・ 森鴎外 「細木香以」
・・・ 鴉の群れを離れて、鴉の振舞を憎んでいるのかと思われるように、鴎が二三羽、きれぎれの啼声をして、塔に近くなったり遠くなったりして飛んでいる。 疲れたような馬が車を重げに挽いて、塔の下に来る。何物かが車から卸されて、塔の内に運び入れら・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・さて今既に印刷し畢っているファウスト考には、右の第一部、第二部の正誤表を合併して、更に訂正を加えて添えてあるのである。六 正誤表に載せてある誤には、誤植もあれば、誤写もある。原稿は私の書いたのを、筆工に写させた。それが印刷所・・・ 森鴎外 「不苦心談」
・・・ファウストの場合では校正の時私と太田さんとの心附いた限の訂正をした。次に本が出来てから目を通して正誤をすることが出来る。ファウストの場合では佐佐木信綱さんが好意を以て一読して下さることになった。そこで私と佐佐木さんとの心附いた限が正誤表に上・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
出典:青空文庫