・・・この間に立って論難批評したり新脚本を書いたりするはルーテルが法王の御教書を焼くと同一の勇気を要する。『桐一葉』は勿論『書生気質』のようなものではない。中々面白い。花見の夢の場、奴の槍踊の処は坪内君でなくてアレほど面白く書くものは外にあるまい・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・この間に立って論難批評したり新脚本を書いたりするはルーテルが法王の御教書を焼くと同一の勇気を要する。『桐一葉』は勿論『書生気質』のようなものではない。中々面白い。花見の夢の場、奴の槍踊の処は坪内君でなくてアレほど面白く書くものは外にあるまい・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・この間に立って論難批評したり新脚本を書いたりするはルーテルが法王の御教書を焼くと同一の勇気を要する。『桐一葉』は勿論『書生気質』のようなものではない。中々面白い。花見の夢の場、奴の槍踊の処は坪内君でなくてアレほど面白く書くものは外にあるまい・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
鳥屋の前に立ったらば赤い鳥がないていた。私は姉さんを思い出す。電車や汽車の通ってる町に住んでる姉さんがほんとに恋しい、なつかしい。もう夕方か、日がかげる。村の方からガタ馬車がらっぱを吹いて駆けてくる。・・・ 小川未明 「赤い鳥」
・・・ こうして、おじいさんは日の照る日中は村から、村へ歩きましたけれど、晩方にはいつも、この城跡にやってきて、そこにあった、昔の門の大きな礎石に、腰をかけました。そして、暮れてゆく海の景色をながめるのでありました。「ああ、なんといういい・・・ 小川未明 「海のかなた」
・・・人の頭の上で泥下駄を垂下げてる奴があるかい。あっちの壁ぎわが空いてら。そら、駱駝の背中みたいなあの向う、あそこへ行きねえ。」と険突を食わされた。 駱駝の背中と言ったのは壁ぎわの寝床で、夫婦者と見えて、一枚の布団の中から薄禿の頭と櫛巻の頭・・・ 小栗風葉 「世間師」
・・・空はところどころ曇って、日がバッと照るかと思うときゅうにまた影げる。水ぎわには昼でも淡く水蒸気が見えるが、そのくせ向河岸の屋根でも壁でも濃くはっきりと目に映る。どうしてももう秋も末だ、冬空に近い。私は袷の襟を堅く合せた。「ねえ君、二三日・・・ 小栗風葉 「世間師」
・・・ておいた筈の洋燈の灯が、ジュウジュウと音を立てて暗くなって来た、私はその音に不図何心なく眼が覚めて、一寸寝返りをして横を見ると、呀と吃驚した、自分の直ぐ枕許に、痩躯な膝を台洋燈の傍に出して、黙って座ってる女が居る、鼠地の縞物のお召縮緬の着物・・・ 小山内薫 「女の膝」
・・・ 曖昧に苦笑してると、男はまるで羽搏くような恰好に、しきりに両手をうしろへ泳がせながら、「失礼でっけど、あんた昨夜おそうにお着きにならはった方と違いまっか」 と、訊いた。「はあ、そうです」 何故か、私は赧くなった。「・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・その癖もう八月に入ってるというのに、一向花が咲かなかった。 いよ/\敷金切れ、滞納四ヵ月という処から家主との関係が断絶して、三百がやって来るようになってからも、もう一月程も経っていた。彼はこの種を蒔いたり植え替えたり縄を張ったり油粕まで・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
出典:青空文庫