・・・病人は私の方を信じて「それ御覧、間違ってるだろう」と看護婦に言います。看護婦は妙な顔をして居ました。此れ等の打合せをしようにも、二人が病人の傍を離れる事は到底不可能な事、まして、小声でなんか言おうものなら、例の耳が決して逃してはおきません。・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・自分のいるところからいつも人の窓が見られたらどんなに楽しいだろうと、いつもそう思ってるんです。そして僕の方でも窓を開けておいて、誰かの眼にいつも僕自身を曝らしているのがまたとても楽しいんです。こんなに酒を飲むにしても、どこか川っぷちのレスト・・・ 梶井基次郎 「ある崖上の感情」
・・・ 闇にも歓びあり、光にも悲あり、麦藁帽の廂を傾けて、彼方の丘、此方の林を望めば、まじまじと照る日に輝いて眩ゆきばかりの景色。自分は思わず泣いた。 国木田独歩 「画の悲み」
・・・』『アハハハハハばかを言ってる、ドラ寝るとしよう、皆さんごゆっくり』と、幸衛門の叔父さん歳よりも早く禿げし頭をなでながら内に入りぬ。『わたしも帰って戦争の夢でも見るかな』と、罪のない若旦那の起ちかかるを止めるように『戦争はまだ永・・・ 国木田独歩 「置土産」
・・・会は非常な盛会で、中には伯爵家の令嬢なども見えていましたが夜の十時頃漸く散会になり僕はホテルから芝山内の少女の宅まで、月が佳いから歩るいて送ることにして母と三人ぶらぶらと行って来ると、途々母は口を極めて洋行夫婦を褒め頻と羨ましそうなことを言・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・会は非常な盛会で、中には伯爵家の令嬢なども見えていましたが夜の十時頃漸く散会になり僕はホテルから芝山内の少女の宅まで、月が佳いから歩るいて送ることにして母と三人ぶらぶらと行って来ると、途々母は口を極めて洋行夫婦を褒め頻と羨ましそうなことを言・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・会は非常な盛会で、中には伯爵家の令嬢なども見えていましたが夜の十時頃漸く散会になり僕はホテルから芝山内の少女の宅まで、月が佳いから歩るいて送ることにして母と三人ぶらぶらと行って来ると、途々母は口を極めて洋行夫婦を褒め頻と羨ましそうなことを言・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・会は非常な盛会で、中には伯爵家の令嬢なども見えていましたが夜の十時頃漸く散会になり僕はホテルから芝山内の少女の宅まで、月が佳いから歩るいて送ることにして母と三人ぶらぶらと行って来ると、途々母は口を極めて洋行夫婦を褒め頻と羨ましそうなことを言・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・あたかも野辺にさすらいて秋の月のさやかに照るをしみじみと眺め入る心持と或は似通えるか。さりとて矢も楯もたまらずお正の許に飛んで行くような激越の情は起らないのであった。 ただ会いたい。この世で今一度会いたい。縁あらば、せめて一度此世で会い・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・馬ようやく船に乗りて船、河の中流に出ずれば、灘山の端を離れてさえさえと照る月の光、鮮やかに映りて馬白く人黒く舟危うし。何心なくながめてありしわれは幾百年の昔を眼前に見る心地して一種の哀情を惹きぬ。船回りし時われらまた乗りて渡る。中流より石級・・・ 国木田独歩 「小春」
出典:青空文庫