・・・利休は実に天仙の才である。自分なぞはいわゆる茶の湯者流の儀礼などは塵ばかりも知らぬ者であるけれども、利休がわが邦の趣味の世界に与えた恩沢は今に至てなお存して、自分らにも加被していることを感じているものである。かほどの利休を秀吉が用いたのは実・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・それがただ一様な色紙ではなくて、よく見るとその上には色々の規則正しい模様や縞や点線が現われている。よくよく見ているとその中のある物は状袋のたばを束ねてある帯紙らしかった。またある物は巻煙草の朝日の包紙の一片らしかった。マッチのペーパーや広告・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・――純白な紙、やさしい点線のケイの中に何を書かせようと希うのか深みゆく思い、快よき智の膨張私は 新らしい仕事にかかる前愉しい 心ときめく醗酵の時にある。一旦 心の扉が開いたら此上に私の創る世界が湧上ろ・・・ 宮本百合子 「初夏(一九二二年)」
出典:青空文庫