・・・島木氏は、今日の作家のそのような姿こそ、そのままで却って積極的なものを語る場合がないとは云えないと云っている。唐人お吉が自分の惨めな生存そのもので当時の社会に抗議しているように、作家の惨めな姿そのものが抗議であると。 だが、このことも、・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・それに綿を入れてくくって唐人まげの根元に緋縮緬をかけてはでな色の着物をきせて、帯をむすんでおひなさんは出来上った。二人はそれをまん中に置いて目も鼻も口さえない、それでも女と云う感じがする不思議なこの御人形さんを見て居た。「たまにフッとし・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・祖父の死後秋三の父は莫大な家産を蕩尽して出奔した。それに引き換え、勘次の父は村会を圧する程隆盛になって来た。そこで勘次の父は秋三の家が没落して他人手に渡ろうとした時、復讐と恩酬とを籠めたあらゆる意味において、「今だ!」と思った。そして、妻が・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫