・・・文化国家は国家の統制力によって、個人が孤立しては到底得られないような教養と力と自由とを国民に享受せしめねばならぬ。かかる理想から労働者階級に対する国家としての道徳的義務がある。労働階級といえどもこの努力に協力するの義務がある。富裕階級が労働・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ かくて濤声高き竜ノ口の海辺に着いて、まさに頸刎ねられんとした際、異様の光りものがして、刑吏たちのまどうところに、助命の急使が鎌倉から来て、急に佐渡へ遠流ということになった。 文永八年十月十日相模の依智を発って、佐渡の配所に向かった・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
当世の大博士にねじくり先生というがあり。中々の豪傑、古今東西の書を読みつくして大悟したる大哲学者と皆人恐れ入りて閉口せり。一日某新聞社員と名刺に肩書のある男尋ね来り、室に入りて挨拶するや否、早速、先生の御高説をちと伺いたし、・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・特更あれは支那流というのですか病人流というのですか知りませんが、紳士淑女となると何事も自分では仕無いで、アゴ指図を極め込んで甚だ尊大に構えるのが当世ですネ。ですから左様いう人が旅行をするのは何の事は無い、「御茶壺」になって仕舞うようなもので・・・ 幸田露伴 「旅行の今昔」
・・・ 先生の文章は当世に売らんが為めには、寧ろ余りに高過ぎた。先生の文章は曽て世間と伴わなった。曽て世間に媚びなかった。常に世間に一歩を先んじた。先生の文章は先生の至誠至忠の人格の発露であった。是れ先生の文章の常に真気惻々人を動かす所以であ・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・そういう当世の名士がこの池の茶屋を贔屓にして詰め掛けて来てくれるという意味を通わせた。「御隠居さん、まあこの景気を御覧なすって下さい」 とお三輪の側へ来て言って見せるのは金太郎だ。見ると、小砂利まじりの路の上を滑って来る重い音をさせ・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・私がもし映画統制局々長とか何とかの肩書のある男であったなら、「どうも、なんですねえ、娯楽味を忘れては、なりませんですねえ」などと何の意味も無いような意見を述べても、映画界の幹部たちはひとしく感奮し、ただちに映画界の全従業員を集めて、「実にこ・・・ 太宰治 「芸術ぎらい」
・・・それ以前から先輩の読み物であった坪内氏の「当世書生気質」なども当時の田舎の中学生にはやはり一つの新しい夢を吹き込むものであった。宮崎湖処子の「帰省」という本が出て、また別な文学の世界の存在を当時の青年に啓示した。一方では民友社で出していた「・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・さて、なんの覚悟もない烏合の衆の八十人ではおそらく一坪の物置きの火事でも消す事はできないかもしれないが、しかし、もしも充分な知識と訓練を具備した八十人が、完全な統制のもとに、それぞれ適当なる部署について、そうしてあらかじめ考究され練習された・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・さて、何の覚悟もない烏合の衆の八十人ではおそらく一坪の物置の火事でも消す事は出来ないかもしれないが、しかし、もしも十分な知識と訓練を具備した八十人が、完全な統制の下に、それぞれ適当なる部署について、そうしてあらかじめ考究され練習された方式に・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
出典:青空文庫