・・・県会議員が、当選したあかつきには、百姓の利益を計ってやる、というような口上には、彼等はさんざんだまされて来た。うまい口上を並べて自分に投票させ、その揚句、議員である地位を利用して、自分が無茶な儲けをするばかりであることを、百姓達は、何十日と・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・ 書きためて、懸賞当選を狙う手もあるのですが、あれには運が多い気がしてイヤです。それに、こんな汚ない字の原稿なんか読んではくれますまい。また薄志弱行のぼくは活字にならぬ作品がどんどん殖えて行くとどうしても我慢できず、最初のから破ってしまうの・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・に投書して下さって、それが一等に当選し、選者の偉い先生が、恐ろしいくらいに褒めて下さって、それから私は、駄目になりました。あの時の綴方は、恥ずかしい。あんなのが、本当に、いいのでしょうか。どこが、いったい、よかったのでしょう。「お使い」とい・・・ 太宰治 「千代女」
・・・長兄が代議士に当選して、その直後に選挙違犯で起訴された。私は、長兄の厳しい人格を畏敬している。周囲に悪い者がいたのに違いない。姉が死んだ。甥が死んだ。従弟が死んだ。私は、それらを風聞に依って知った。早くから、故郷の人たちとは、すべて音信不通・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・そんなにむごくされても、あの人は、やっぱり生れた家に未練があるのか、いつだったか、あの黒石の兄さんが、何とか議員に当選した時の、まあ、あの人の喜びようったら、あさましくて、あいそが尽きました。議員なんて、何もそんなに偉いものではないと思いま・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・Alles Oder Nichts イブセンの劇より発し少しずつヨオロッパ人の口の端に上りしこの言葉が、流れ流れて、今では、新聞当選のたよりげなき長編小説の中にまで、易々とはいりこんでいたのを、ちらと見て、私自身、嘲弄された・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・しかし当選した正解者の答案は極めて簡単明瞭で「水はこぼれますよ」というのであった。 颱風のような複雑な現象の研究にはなおさら事実の観測が基礎にならなければならない。それには颱風の事実を捕える観測網を出来るだけ広く密に張り渡すのが第一着の・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・最初に軒端の廻燈籠と梧桐に天の河を配した裏絵を出したら幸運にそれが当選した。その次に七夕棚かなんかを出したら今度は見事に落選した。その後子規に会ったとき「あれはまずい、前のと別人のようだと不折が云っていた」と云われた。その後に冬木立の逆様に・・・ 寺田寅彦 「明治三十二年頃」
・・・どこの国でも日本のように共和党の候補者デューイの当選が確実だと、あれほど宣伝されていたのだろうか。日本での宣伝はひどかった。十一月三日の開票日の前日、日本の代表的な新聞はデューイ氏当選確実、共和党早くも祝賀会準備と、まるで丸の内あたりでその・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・そして、意外に多勢の婦人立候補者が当選した。婦人立候補者の四割八分ほどは当選して、二十八歳から六十六歳まで、三十九名の婦人代議士が、新しい明日に向って選び出されたのである。しかも、これらの婦人代議士の中には、それぞれの選挙区で最高点を得た人・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
出典:青空文庫