・・・朝、目がさめて、きょうこそは、しっかりした意志を持ちつづけて悔いなく暮そうと、誓ってお床から起き出すのですけど、朝御飯まで、とっても、もちません。それまでは、それはそれは、ひどい緊張で物事に当りますの。シャッチョコ張って、御不浄の戸を閉める・・・ 太宰治 「俗天使」
・・・「とっても、我慢ができないの。私まで、むず痒くなって」家内は、ときどき私に相談する。「なるべく見ないように努めているんだけれど、いちど見ちゃったら、もうだめね。夢の中にまで出てくるんだもの」「まあ、もうすこしの我慢だ」がまんするより・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・私は、いま、自分の頭に錆びた鍋でも被っているような、とっても重くるしい、やり切れないものを感じて居ります。私は、きっと、頭が悪いのです。本当に、頭が悪いのです。もう、来年は、十九です。私は、子供ではありません。 十二の時に、柏木の叔父さ・・・ 太宰治 「千代女」
・・・けれども、菊子さん、だめだった。とっても、ひどい事になりました。それから、ひとつき経たぬうちに、私は、もう一度戸田さんへ、どうしても手紙を書かなければならぬ事情が起りました。しかも今度は、住所も名前も、はっきり知らせて。 菊子さん、私は・・・ 太宰治 「恥」
・・・私はいま、とっても面白い小説を書きかけているので、なかば上の空で、対談していました。おゆるし下さい。 太宰治 「「晩年」に就いて」
・・・ずいぶん役に立った。とっても役に立った。 だからこんども、おつかいに連れて行くのね? 連れて行くとも、連れて行くとも。さあ、あったしましょう。下手の障子をあけて、あさ、睦子登場。睦子はすぐ数枝のほうに走って行き、数枝の膝・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・「でも、とっても、きたないところよ。」「かまわない。さっそくこれから訪問しよう。そうしてお母さんを引っぱり出して、どこかその辺の料理屋で大いに飲もう。」「ええ。」 女は、次第に元気が無くなるように見えた。そうして歩一歩、おと・・・ 太宰治 「メリイクリスマス」
・・・に帰る途々、できるだけ、どっさり周囲の美しい雪景色を眺めて、眼玉の底だけでなく、胸の底にまで、純白の美しい景色を宿した気持でお家へ帰り着くなり、「お嫂さん、あたしの眼を見てよ、あたしの眼の底には、とっても美しい景色が一ぱい写っているのよ・・・ 太宰治 「雪の夜の話」
・・・なんの事やら、とっても、ぷんぷんして出かけましたよ。」「それあ、そうでしょう。ちょっと、ひどかったですものね。それで、あのひとは? どうしたのです。まだ、ここにいるようですね。」「女中さんがわりにいてもらう事にしました。どうして、な・・・ 太宰治 「リイズ」
・・・いいえ、ハワイの事、決死的大空襲よ、なにせ生きて帰らぬ覚悟で母艦から飛び出したんだって、泣いたわよ、三度も泣いた、姉さんはね、あたしの泣きかたが大袈裟で、気障ったらしいと言ったわ、姉さんはね、あれで、とっても口が悪いの、あたしは可哀想な子な・・・ 太宰治 「律子と貞子」
出典:青空文庫