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・・・「とまれ! とまれ!」 私は丸太棒でがんと脳天を殴られた思いで、激怒した。ようやくとまったバスの横腹を力まかせに蹴上げた。Kはバスの下で、雨にたたかれた桔梗の花のように美しく伏していた。この女は、不仕合せな人だ。「誰もさわるな!・・・
太宰治
「秋風記」
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・・・誰やらの邸で歌の会のあったとき見覚えた通りに半紙を横に二つに折って、「家老衆はとまれとまれと仰せあれどとめてとまらぬこの五助哉」と、常の詠草のように書いてある。署名はしてない。歌の中に五助としてあるから、二重に名を書かなくてもよいと、すなお・・・
森鴎外
「阿部一族」