・・・もっとも眼は大分とろんこだったがね。「毎日行きたくっても、そうはお小遣いがつづかないでしょう。だから私、やっと一週に一ぺんずつ行って見たんです。」――これはいいが、その後が振っている。「一度なんか、阿母さんにねだってやっとやって貰うと、・・・ 芥川竜之介 「片恋」
・・・云う心の大部分は、純粋な芸術的感銘以外に作者の人生観なり、世界観なり兎に角或思想を吐露するのに、急であると云う意味であろう。この限りでは菊池寛も、文壇の二三子と比較した場合、謂う所の生一本の芸術家ではない。たとえば彼が世に出た以来、テエマ小・・・ 芥川竜之介 「「菊池寛全集」の序」
・・・もし寸毫の虚偽をも加えず、我我の友人知己に対する我我の本心を吐露するとすれば、古えの管鮑の交りと雖も破綻を生ぜずにはいなかったであろう。管鮑の交りは少時問わず、我我は皆多少にもせよ、我我の親密なる友人知己を憎悪し或は軽蔑している。が、憎悪も・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ 修理は、上使の前で、短刀を法の如くさし出されたが、茫然と手を膝の上に重ねたまま、とろうとする気色もない。そこで、介錯に立った水野の家来吉田弥三左衛門が、止むを得ず後からその首をうち落した。うち落したと云っても、喉の皮一重はのこっている・・・ 芥川竜之介 「忠義」
小田原熱海間に、軽便鉄道敷設の工事が始まったのは、良平の八つの年だった。良平は毎日村外れへ、その工事を見物に行った。工事を――といったところが、唯トロッコで土を運搬する――それが面白さに見に行ったのである。 トロッコの・・・ 芥川竜之介 「トロッコ」
・・・お来さんが、通りがかりに、ツイとお位牌をうしろ向けにして行く……とも知らず、とろんこで「御先祖でえでえ。」どろりと寝て、お京や、蹠である。時しも、鬱金木綿が薄よごれて、しなびた包、おちへ来て一霜くらった、大角豆のようなのを嬉しそうに開けて、・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・「なまけもんだ、陽気のよさに、あとはすぐとろとろだ。あの潰屋の陰に寝ころばっておったもんだでの。」 白鷺はやがて羽を開いた。飛ぶと、宙を翔る威力には、とび退る虫が嘴に消えた。雪の蓑毛を爽に、もとの流の上に帰ったのは、あと口に水を含ん・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ふっくりとも、ほっかりとも、細い毛へ一つずつ日光を吸込んで、おお、お前さんは飴で出来ているのではないかい、と言いたいほど、とろんとして、目を眠っている。道理こそ、人の目と、その嘴と打撞りそうなのに驚きもしない、と見るうちに、蹈えて留った小さ・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・と平気な顔をして、明け方トロトロと眠ると直ぐ眼を覚まして、定刻に出勤して少しも寝不足な容子を見せなかったそうだ。 鴎外は甘藷と筍が好物だったそうだ。肉食家というよりは菜食党だった。「野菜料理は日本が世界一である。欧羅巴の野菜料理ての・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・と、よしおさんが とろうと しましたが、とれません。よしおさんが、つね子ちゃんを おうちへ つれて きて あげました。おかあさんは、「よしおさん、ありがとう。」と おっしゃいました。 つね子ちゃんは よく お目目を あらいま・・・ 小川未明 「おっぱい」
出典:青空文庫