・・・ 日本の文脈ということについて極端にさかのぼってだけ考える人々の間には、漢語で今日通用されている種々の名詞や動詞を、やまとことばというものに翻訳し、所謂原体にかえした云いかたで使わせようという動きもある。果して、現実の可能の多い方法であ・・・ 宮本百合子 「今日の文章」
・・・片山哲が首相であった時、一般都民が高い都民税に苦しんだ頃、同氏の税額が公表されたことがあった。それは東京都民として最低の額であった。MRAのお客となることは、懐のいたまない、気分のいいことかもしれないが、そのかわり、それだけの恥もひそめられ・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
・・・ 科学と探偵小説 木々高太郎氏は、執筆する探偵小説によって賞をも得たことは周知であり、パヴロフの条件反射を専攻されている医博であることを知らぬものはない。同氏の『夜の翼』という探偵小説集が出ていて、それを読み、・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・山口一太郎氏の二篇の実録をよむと、この人が二・二六事件をクライマックスとする陸軍部内の青年将校の諸陰謀事件に、密接な関係をもっていたことがはっきり書かれている。同氏は二・二六事件の本質を、陸軍内部の国体原理主義者――皇道派と、人民覇道派――・・・ 宮本百合子 「作家は戦争挑発とたたかう」
・・・に関する作者平田氏の文章がのっていたのであるが、私はなぜかその文章と前後して会った同氏の話の調子とから、一貫して心にのこるある種の印象をうけた。ナウカ社ニュースの文章では作者自身すでに「囚われた大地」が農民の書いた小説でないことはもちろん、・・・ 宮本百合子 「作家への課題」
・・・まして国鉄本省にあらわれた下山氏がとりみだしていたという姿は、一日に千余通送られていた人民の哀訴の手紙と、権力に奉仕する官僚としての板ばさみの立場に苦しむ同氏の心の乱れのほかではないだろう。 死の過程がどうであったにしろ、下山氏の死の本・・・ 宮本百合子 「「推理小説」」
八月七日の本紙に、伊藤整氏が同氏の作「幽鬼の町」に就て書いた私の月評に反駁した文章を発表された。編輯者は、私からそれに答える文を求めている。生活及文学に対する私の態度を盲目的な偏執又は非芸術的な機械性と云われている点や錯覚・・・ 宮本百合子 「数言の補足」
・・・といい、ジャーナリズムが社会的効果に対して無責任であることを指摘しているが、もし現在のジャーナリズムにそのような弱いところがなかったならば同氏によって『文芸』に推薦されたと仄聞する勝野金政の小説などは、烏滸がましくも小説として世間に面をさら・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・『セルパン』八月号にも同氏の「文化の自由性と文化統制の原理」という論文がある。そこで氏は文化の自由こそ文化を進めるものであると主張されているのであるが、ここでも氏の判断の中で曖昧のままのこされている上述の一点は作用して、結末に於て、作家・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
・・・ 又七郎は平生阿部弥一右衛門が一家と心安くして、主人同志はもとより、妻女までも互いに往来していた。中にも弥一右衛門の二男弥五兵衛は鎗が得意で、又七郎も同じ技を嗜むところから、親しい中で広言をし合って、「お手前が上手でもそれがしにはかなう・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫