・・・ところが、お前さん方になると、入った人が出てくるまでどうにか食って行けるだろうし、色んなものが充分差入も出来るから羨やましい。面会に行ったら、食えなくなったら仲間の人に頼んでみれ、それも長続きしなかったら、親類のところへ追い出される迄転ろげ・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・不自由な男の手一つでも、どうにかわが子の養えないことはあるまい、その決心にいたったのは私が遠い外国の旅から自分の子供のそばに帰って来た時であった。そのころの太郎はようやく小学の課程を終わりかけるほどで、次郎はまだ腕白盛りの少年であった。私は・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・しかしもう一度どうにかして上げますから、王さまに銀のびんを二つもらってお出でなさい。」と言いました。 ウイリイは銀のびんをもらって来て、馬のさしずどおりに、一つへ命の水という字を彫らせ、もう一つへは、死の水という字を彫らせました。「・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・そこでどうにかしてあの人にお前さんに優しくして貰おうと思って、いろいろ骨を折って見ても、駄目だったのね。その内お前さんに約束の人が出来たでしょう。そうするとあの人が急にお前さんに恐ろしく優しくし出したのね。なんだかそれまでは心の内を隠してい・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・ バニカンタは、どうにかして、可哀そうな娘を慰めようとしました。そして、自分の頬も涙で濡てしまいました。 愈々、明日は、カルカッタに行かなければならないと云う時になりました。スバーは、自分が子供の時から友達であったもの達に別れを告げ・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・さまざま駄々をこねて居たようですが、どうにか落ち附き、三島の町はずれに小ぢんまりした家を持ち、兄さんの家の酒樽を店に並べ、酒の小売を始めたのです。二十歳の妹さんと二人で住んで居ました。私は、其の家へ行くつもりであったのです。佐吉さんから、手・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・僕がいないと、銀行で差支えるのですが、どうにかして貰えないことはなかろうと思います。」実はこれ程容易な事はない。自分がいなくても好いことは、自分が一番好く知っているのである。「宜しい。それじゃあ、明日邸へ来てくれ給え。何もかも話して聞せ・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・明朝になったなら、またどうにかしようというのであった。しかしそれは画餅になった。おれはとうとう包みと一しょに寝た。十二キロメエトル歩いたあとだからおれは随分くたびれていて、すぐ寝入った。そうすると間もなく戸を叩くものがある。戸口から手が覗く・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・肥った赤ら顔の快活そうな老西洋人が一人おり立って、曲がった泥よけをどうにか引き曲げて直した後に、片手を高くさしあげてわれわれをさしまねきながら大声で「ドモスミマシェン」と言って嫣然一笑した。そうして再びエンジンの爆音を立てて威勢よく軽井沢の・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・そうなれば、金の方は後でどうにか心配するけれど、今はちょっとね」「二度ばかり、松山の伯父さんとこへお尋ねしたそうですが、青木さんが叔父さんに逢ってお話したいそうですがいずれ私たちの悪口でしょうと思いますけれど」 道太はそれは逢っても・・・ 徳田秋声 「挿話」
出典:青空文庫