・・・風変りな俊寛は、鬼界ヶ島で鬼と化した謡曲文学の観念を吹きはらって、勇壮に鰤釣りを行い、耕作を行い、土人の娘を妻として子供を五人生み、有王を驚殺するのである。日本の封建の伝統が近代日本の心にも伝えている生命への蔑視を、これらの作品はつよく否定・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・或はヨーロッパ文明にあきた女性に対して、より原始的生物のエネルギーにみちたメキシコ土人の男が出現する。 わたしたちは、ここにD・H・ローレンスという作家の秘密の母斑を見る。彼は、人間性の課題としての性の解放を、上流の男女の冷淡で偽善的な・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・なるほど、南洋土人が、この樹の下で踊るには、白く塗ったところへぞッとする模様を描いた巨大な仮面でもかぶらなければ追つくまいと思う。 また大淀まで、今度は軽便鉄道で戻るのだが、道々、私共は本当に見渡す限り快闊な日向の風好を愛した。高千穂峯・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・ 空想的な扮装したレヴューの土人みたいな「赤紫島」の住民が何かのキッカケで、至極安直に革命を遂行し、ツァーの追っ払いをやり、目出度し目出度しとなるのだが、ソヴェト同盟のルバーシカを着た観衆はゾロゾロ、カーメルヌイ劇場から出て来ながら、こ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 金の櫛をさして眼の細い土人形の姫だの、虫封じのお守りの小さい首人形をながめながら、しっとりと重い髪の毛のひだを撫でて居りますと、包まれた様に柔かな心の底から、何がなし光がさし出て来る様な気が致します。 この上なくしずまった心で貴方・・・ 宮本百合子 「たより」
・・・慥かに人だ。土人の着る浅葱色の外套のような服で、裾の所がひっくり返っているのを見ると、羊の毛皮が裏に附けてある。窓の方へ背中を向けて頭を粟稈に埋めるようにしているが、その背中はぶるぶる慄えていると云うのだね。」 小川は杯を取り上げたり、・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・これがまた逆にヨーロッパに影響して、二十世紀の初めまで、相当に教養の高い人すらも、アフリカの土人は半獣的な野蛮人である、奴隷種族である、呪物崇拝のほか何も産出することのできなかった未開民族である、などと考えていたのであった。 が、この奴・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
・・・我々は創作に際して手細工に土人形をこさえるような自由を持っていない。我々はむしろ姙まれたものに駆使されその要求する所に無条件に服従するほかないのである。 特に芸術のごとき複雑困難な表現手段を必然的に必要とする内生は、非常に高められたもの・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
出典:青空文庫