・・・そこで無理やりに千金を押付て、別に二百金を中間に立って取做してくれる人に酬い、そして贋鼎を豪奪するようにして去った。巧偸豪奪という語は、宋の頃から既に数しばしば見える語で、骨董好きの人には豪奪ということも自然と起らざるを得ぬことである。マア・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・つまり悪の人物は、前に申しました第一第三の種類の人物の中間的に作り出されるかと思われますのです。ですからこれまた無論実社会と無関係没交渉では無いのであります。 これはひとり馬琴に限って論ずる訳ではありませんが、すべて仮作物語の作者と実社・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・実際に是の如き公私の中間者の発生は、栄え行こうとする大きな活気ある町には必要から生じたものであって、しかも猫の眼の様にかわる領主の奉行、――人民をただ納税義務者とのみ見做して居る位に過ぎぬ戦乱の世の奉行なんどよりは、此の公私中間者の方が、何・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・別の監房にいる俺たちの仲間も、帰えりには片足を引きずッて来たり、出て行く時に何んでもなかった着物が、背中からズタ/\に切られて戻ってきたりした。「やられた」 と云って、血の気のなくなった顔を俺たちに向けたりした。 俺たちはその度・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・日頃懇意な植木屋が呉れた根も浅い鉢植の七草は、これもとっくに死んで行った仲間だ。この旱天を凌いで、とにもかくにも生きつづけて来た一二の秋草の姿がわたしの眼にある。多くの山家育ちの人達と同じように、わたしも草木なしにはいられない方だから、これ・・・ 島崎藤村 「秋草」
・・・あの仲間へ這入ってこの腕を上げ下げして、こちとらの手足の中にある力を鉄の上に加えて見たい。あの目の下に見えている頑強な、固い、立派な鉄の上に加えて見たい。なんだってここに立って両手を隠しに入れていなくてはならないのだろう。」 その時どう・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・「どうぞ、これから私をもお前さんたち二人の仲間に入れておくれ。そして三人で本当の友だちになりたい。」 こう言って、ピシアスとデイモンの手をとったということです。 鈴木三重吉 「デイモンとピシアス」
・・・ スバーは、此他もう少し高等な生きものの中にも一人の仲間を持っていました。ただ、その仲間と云うのも、どんな風な仲間と云ってよいのか、一口で云うのは難しいことでした。何故なら、彼女のその仲間は、話が出来ました。彼に話しが出来ることが、却っ・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・三兄は、決してそのお仲間に加わらず、知らんふりして自分の席に坐って、凝ったグラスに葡萄酒をひとりで注いで颯っと呑みほし、それから大急ぎでごはんをすまして、ごゆっくり、と真面目にお辞儀して、もう掻き消すように、いなくなってしまいます。とても、・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・天と地との中間のようでもあり、天の処という場所か、または、地の底らしくもある。とにかく彼は此の地上を支配し、出来る限りの悪を人に加えようとしている。彼は人を支配し、人は生れながらにして彼の権力の下にある。この故に『この世の君』であり、『この・・・ 太宰治 「誰」
出典:青空文庫