・・・「名代な魔所でござります。」「何か知らんが。」 と両手で頤を扱くと、げっそり瘠せたような顔色で、「一ッきり、洞穴を潜るようで、それまで、ちらちら城下が見えた、大川の細い靄も、大橋の小さな灯も、何も見えぬ。 ざわざわざわざ・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・「名代な魔所でござります。」「何か知らんが。」 と両手で頤を扱くと、げっそり瘠せたような顔色で、「一ッきり、洞穴を潜るようで、それまで、ちらちら城下が見えた、大川の細い靄も、大橋の小さな灯も、何も見えぬ。 ざわざわざわざ・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・るな、しばらく人間とは交らぬ、と払い退けるようにしてそれから一式の恩返しだといって、その時、饅頭の餡の製し方を教えて、屋根からまた行方が解らなくなったと申しますが、それからはその島屋の饅頭といって街道名代の名物でございます。」 ・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・るな、しばらく人間とは交らぬ、と払い退けるようにしてそれから一式の恩返しだといって、その時、饅頭の餡の製し方を教えて、屋根からまた行方が解らなくなったと申しますが、それからはその島屋の饅頭といって街道名代の名物でございます。」 ・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・六七人と銑吉がこの近所の名代の天麸羅で、したたかに食い且つ飲んで、腹こなしに、ぞろぞろと歩行出して、つい梅水の長く続いた黒塀に通りかかった。 盛り場でも燈を沈め、塀の中は植込で森と暗い。処で、相談を掛けてみたとか、掛けてみるまでもなかっ・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・六七人と銑吉がこの近所の名代の天麸羅で、したたかに食い且つ飲んで、腹こなしに、ぞろぞろと歩行出して、つい梅水の長く続いた黒塀に通りかかった。 盛り場でも燈を沈め、塀の中は植込で森と暗い。処で、相談を掛けてみたとか、掛けてみるまでもなかっ・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ ――これが、名代の阿部川だね、一盆おくれ。―― と精々喜多八の気分を漾わせて、突出し店の硝子戸の中に飾った、五つばかり装ってある朱の盆へ、突如立って手を掛けると、娘が、まあ、と言った。 ――あら、看板ですわ―― いや、正の・・・ 泉鏡花 「雛がたり」
・・・ ――これが、名代の阿部川だね、一盆おくれ。―― と精々喜多八の気分を漾わせて、突出し店の硝子戸の中に飾った、五つばかり装ってある朱の盆へ、突如立って手を掛けると、娘が、まあ、と言った。 ――あら、看板ですわ―― いや、正の・・・ 泉鏡花 「雛がたり」
・・・という芭蕉の句も、この辺という名代の荒海、ここを三十噸、乃至五十噸の越後丸、観音丸などと云うのが、入れ違いまする煙の色も荒海を乗越すためか一際濃く、且つ勇ましい。 茶店の裏手は遠近の山また山の山続きで、その日の静かなる海面よりも、一層か・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・という芭蕉の句も、この辺という名代の荒海、ここを三十噸、乃至五十噸の越後丸、観音丸などと云うのが、入れ違いまする煙の色も荒海を乗越すためか一際濃く、且つ勇ましい。 茶店の裏手は遠近の山また山の山続きで、その日の静かなる海面よりも、一層か・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
出典:青空文庫