・・・出る杭を打たうとしたりや柳かな酒を煮る家の女房ちょとほれた絵団扇のそれも清十郎にお夏かな蚊帳の内に螢放してアヽ楽や杜若べたりと鳶のたれてける薬喰隣の亭主箸持参化さうな傘かす寺の時雨かな 後世一茶の俗語・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・おかあさんは馬にやるを煮るかまどに木を入れながらききました。「うん。又三郎は飛んでったがもしれないもや。」「又三郎って何だてや。鳥こだてが。」「うん。又三郎っていうやづよ。」一郎は急いでごはんをしまうと、椀をこちこち洗って、それ・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・ 麦を煮る、わらを切る、草をかう○前の田を寺からかりて試作する。肥料の。「あの肥料をつかってこないよう出来たと見せようちゅうところの」 苅ったところで達治とキャッチボール○多賀さんの山 が右手 寺の山 左手 むこう・・・ 宮本百合子 「Sketches for details Shima」
・・・と云う時、今日の知識人はバルザックが自然科学をよりどころとして却ってプラトーの奴隷搾取者としての社会観に似るところまで反動的に引戻ったことを直ちに理解する。然し、現代の高度な資本主義の社会観の発展と地球六分の一をしめる社会主義体制との摩擦は・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・この家では茶を煮るときは、名物の鶴の子より旨いというので、焼芋を買わせる。常磐橋の辻から、京町へ曲がる角に釜を据えて、手拭を被った爺いさんが、「ほっこり、ほっこり、焼立ほっこり」と呼んで売っているのである。酒は自分では飲まないが、心易い友達・・・ 森鴎外 「独身」
・・・この地獄に似る混沌海の波を縫うて走る一道の光明は「道徳」である。吾人はここにおいて現代の道徳に眼を向ける。三 現代の因襲的道徳と機械的教育は吾人の人格に型を強いるものである。「人」として何らの霊的自覚なく、命ぜらるるがままに・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫