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・・・ 抜手を切って行く若者の頭も段々小さくなりまして、妹との距たりが見る見る近よって行きました。若者の身のまわりには白い泡がきらきらと光って、水を切った手が濡れたまま飛魚が飛ぶように海の上に現われたり隠れたりします。私はそんなことを一生懸命・・・
有島武郎
「溺れかけた兄妹」
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・・・作家よ、そして、作家たらんとする人々よ、文壇を蹴って、颯爽と大衆の海へ抜手を切れ、と呼ぶことは、おのずからそこに風の吹きわたるような空気の動きを予想させるのである。 ところで、一般に今日そういう気運が醸し出されているとして、そう云いそれ・・・
宮本百合子
「文学の大衆化論について」