・・・とばかり執拗に、果敢に破綻をもおそれず、即発燃焼を志して一箇の芸術境をきずいて行った姿というものは、平俗に逃避したりおさまったりした枯淡と何等の通じるものをもっていない。はりつめて対象の底にまで流れ入り、それを浮上らせている精神の美があるか・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・又、或るスローガンをぶつけて人々の意識を階級的に燃焼させる必要のあるポスターは、材料の政治的把握不足から、ぼんやりしたものが多い。こういうものをやらせるとソヴェトの人間はうまい。この間うちモスクワの至るところ、活動写真館の壁にまでかかってい・・・ 宮本百合子 「プロレタリア美術展を観る」
・・・の芸術的陶酔として白光灼々とまでは燃焼しきらないものとなっていることもわかる。 この一篇の長篇の終りは、遁走の曲で結ばれている。さまざまに向きをかえ周囲を描いていじって来た江波から、作者はついに常識人である間崎とともに橋本先生につかまっ・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
・・・ 自由な新鮮な感情の燃焼を現わすに、日本語は或時に於ては余り形式的である。女性と男性との言葉遣いの差が、余りつけられすぎて居る窮屈さを感じるのは、物を書こうとする女性の総てが時に感じさせられる事であろう、其他数えれば多くの欠点がある。改・・・ 宮本百合子 「無題」
・・・たまたま強い香気があるとすれば、それはコケおどしに腐心する山気の匂いであり、筆先の芸当に慢心する凝固の臭いであって、真に芸術家らしい独自な生命燃焼の匂いではない。もしこの種の外形的な努力が反省なしに続けて行かれるならば、日本画は低級芸術とし・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・三 私は痛苦と忍従とを思うごとに、年少のころより眼の底に烙きついているストゥックのベエトォフェンの面を思い出す。暗く閉じた二つの眼の間の深い皺。食いしばった唇を取り巻く荘厳な筋肉の波。それは人類の悩みを一身に担いおおせた悲痛・・・ 和辻哲郎 「ベエトォフェンの面」
出典:青空文庫