・・・まはれり小春日の村白壁の山家に桃の影浮きて 胡蝶は舞はでそよ風の吹くなつかしき祖母の住居にありながら まだ旅心失せぬ悲しさなめげなる北風に裾吹かせつゝ 野路をあゆめば都恋しやらちもなく・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・「うぐひす」には、これまでの詩の華麗流麗な綾に代る人生行路難の暗喩がロマンティックな用語につつまれつつ、はっきり主体をあらわしている。「野路の梅」にも同じ傾きとして、浮薄な世間の毀誉褒貶を憤る心が沁み出ている。これは、『若菜集』によって、俄・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・十四 野路では霜柱が崩れ始めた。お霜は粥を入れた小鉢を抱えたまま、「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ。安次が死んどる。熱いお粥食わそう思って持っててやったのに、死んどるわア。」と叫びながら、秋三の家の裏口から馳け込んだ。・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫