・・・勇吉達は生来の働きてだから、もち論身体の弱い野良仕事にも出られないような若者を家に入れるはずはない。充分野良のかせぎは出来て、厄介な、一年二年兵隊にとられることだけは免れそうな若者という念の入った婿選びをした――簡単にいえば、清二という若者・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・昨今の外部的な条件は、例えばいつぞや『朝日新聞』が石坂洋次郎氏の小説をのせる広告を出したら、急にそれはのらないことになって坪田譲治氏の「家に子供あり」になったような影響を示す場合もあるけれどもそれは、文学にとっては相対的な条件であって、この・・・ 宮本百合子 「おのずから低きに」
・・・をやっておりますが、あの主人公のノラは、いままで夫に玩具にされていたということが不満であり、どうかして、玩具の生活から逃れたいといって、家出をする。あのノラの問題に残されているものは家を出てから、どんな生活を、ノラは樹てていったかということ・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・「しじまにもだせる、――しおらしきものらよ、 夜は――けんこんの悪を包まんがために下る、 よろこびうたわん夜のために――くすしき夜のために―― 夢をはらみ――夢の如せまり来る夜に我はひたらん よろこびつつ――たのしみつつ・・・ 宮本百合子 「小鳥の如き我は」
・・・もののあわれ」を知るみやびやかな上流人に対して「むくつけき賤山がつ」として見られており、耳に喧しく「さえずる」ものらとして地に這うものとしての姿が写されているに過ぎない。 文学は、最も原始的な時代に口から口へと語られた。聞き手として当時・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 工場に働くプロレタリアートと地主の野良を耕す貧農にとって、暮らしの辛いこととブルジョアと地主とにしぼられることは、男も女も全く同じだったのです。 それを、では何故ブルジョア・地主のロシアでは、勤労者まで女を一段低いものと思っていた・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の婦人と選挙」
・・・現代の農民が野良に出てゆく時の複雑な心理を、その「労働雑詠」がとらえていないということを、きびしく云うには当らない。それらが、美化された労働・労働を眺めるもののロマンティシズムにたって謳われていることだけを云々するのは妥当を欠くであろう。藤・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・ていたころとはくらべものにならない複雑さと大きさで、じかに政府のやりかたとくみうちして生きていかなければならなくなってきている農村のきょうの実状の中では、農村の主婦、母、未亡人たちすべてが、ただ黙々と野良、家事、育児と三重の辛苦を負うて目先・・・ 宮本百合子 「願いは一つにまとめて」
・・・けれども、野良だの、釣だのに出て来て、こういう風に落付くと、彼はようやっと「俺」をとり戻す。 そして、だんだん心は広々と豊かになって、彼のほんとの命が栄え出すのであった。 今も長閑な心持であたりの様子を眺めているうちに、禰宜様宮田の・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・若いものらは、その旅行へ行って、帰って、しかも余程後になるまで父のこの心の計画は知らなかった。 母はこの欧州旅行を非常によろこんだ。そして旅に出た日からかえるまで船の中ででもホテルでも、殆ど一日もぬかさず旅日記を書きとおした。 医者・・・ 宮本百合子 「母」
出典:青空文庫