・・・四、サビガリ君は、白衣の兵隊さんにお辞儀をなさいますか? あたしは、いつも『今度こそお辞儀をしましょう。』と決心しながら、どうしても、できませんでした。それが、此の間、上野の美術館に行く途中、向うから白衣の兵隊さんが歩いていらっしゃいま・・・ 太宰治 「俗天使」
・・・ かの白衣の妻が答えた。「これは、私ではございませぬ。」にこりともせず、きっぱり頭を横に振った。「こんなひと、いないわ。こんな、ありもしない影武者つかって、なんとかして、ごまかそうとしているのね。どうしても、あのおかたのことは、お書・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・そうして球技場の眩しい日照の下に、人知れず悩む思いを秘めた白衣のヒロインの姿が描出されるのである。 つまらない事ではあるが、拘留された俘虜達が脱走を企てて地下に隧道を掘っている場面がある、あの掘り出した多量な土を人目にふれずに一体どこへ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・ 三 世界の屋根 この映画で自分のもっとも美しいと思った場面はおおぜいの白衣の回教徒がラマダンの断食月に寺院の広場に集まって礼拝する光景である。だがせっかくのこのおもしろい場面をつまらぬこしらえものの活劇で打ちこわし・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・たとえば「白衣の騎士」などもやはり同じ定型に属するものと見ることができはしないかと思う。この型の映画は見たあとで物語の筋などは霧のように消えてしまうが、ただ筋とはたいした関係もないような若干の場面の視覚的印象だけがかなり鮮明に残留するようで・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・救護隊の屯所なども出来て白衣の天使や警官が往来し何となく物々しい気分が漂っていた。 山裾の小川に沿った村落の狭い帯状の地帯だけがひどく損害を受けているのは、特別な地形地質のために生じた地震波の干渉にでもよるのか、ともかくも何か物理的には・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・これと同じ白衣着けたる連れの男は顔長く頬髯見事なれど歩み方の変なるは義足なるべし。この間改札口幾度か開かれまた閉じられて汽笛の止む間もなし。人来り人去っていつまでも待合の隅に居残るは吾等のみなるぞつまらなき。ようやく十二時となりて、プラット・・・ 寺田寅彦 「東上記」
・・・西日が窓越しに看護婦の白衣と車の上のニッケルに直射する。見る目が痛い。手術される人はそれがなお痛いことであろう。 病院で手術した患者の血や、解剖学教室で屍体解剖をした学生の手洗水が、下水を通して不忍池に流れ込み、そこの蓮根を肥やすのだと・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
・・・(白衣に著更サア君行こう。富士山の路は非常に険だと聞いたが、こんなものなら訳はないヨ。オヤ君は爰に写生していたのか。もう四、五枚出来てる?、それはえらいネー。もう五合目い来たのか。とにかくあしこの茶屋で休もうじゃないか。ヤア日本茶店と書てあ・・・ 正岡子規 「初夢」
・・・ 棺前の祭は初められた。 白衣の祭官二人は二親の家を、同胞の家を出て行こうとする霊に優い真心のあふれる祭詞を奉り海山の新らしい供物に□□(台を飾って只安らけく神々の群に交り給えと祈りをつづける。 御玉串を供えて、白絹に被われる小・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
出典:青空文庫