・・・ その縁先の庭で、もう落ちはじめた青桐の葉っぱを大きな音を立てて掃きよせていたシャツ姿の家の者が、「電車も、たまですが通ってますよ」と云った。この遠縁の若者は、輜重輪卒に行って余り赤ぎれへ油をしませながら馬具と銃器の手入れをした・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・「かあさん、あの人、黄色い葉っぱ描いてるよ」 おとなしやかな母親、それに答えず悠くり床几から立った。「あ、そろそろお池の方を廻って帰りましょうか」 水浅黄っぽい小紋の着物、肉づきのよい体に吸いつけたように着、黒繻子の丸帯・・・ 宮本百合子 「百花園」
・・・お茶の出しがらの葉っぱ、ね。あれを、はじめの時分は馬の餌に集めていたけれど、あとでは人間もたべろ、と云ったわ」「僕はなかでくったよ、腹がすいてすいてたまらないんだ」 暫く仕事をしつづけて、ひろ子によみとれない箇所が出て来た。「こ・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・「葉っぱじゃない茎を吹くんじゃないんですか」「いや、確に葉っぱが鳴ったと思うんですがね」 浅くひろがった松林があり、樹の間に掛茶屋が見えた。その彼方に海が光った。 藍子は、額にかざして日をよけていた雑誌の丸めたのを振りながら・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・みのえの体のまわりにある草の中に、黒い実のついたのがあった。葉っぱが紅くなったのもある。一匹のテントウ虫が地面から這い上って、青い細い草をのぼった。自分の体の重みで葉っぱを揺ら揺らさせ、どっちへ行こうかと迷っているようであった。地面の湿っぽ・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
・・・乾いた葉っぱの匂い、微かな草の匂い。自動車やトラックは並木道のあっちを通るから、小深い樹の下は静かで柔かい日光がさしとおしている。 乳車と女とはどのベンチにも沢山いる。 日本も子供が多いが、何とモスクワも子供がどっさりいるんだろう!・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
ついこの頃、科学の仕事をしている友人から大変興味のある話をきいた。それは植物の分類に関することで、従来の分類は、目で見えるだけの葉っぱの形、花の形、実の工合などが目安でされていた。鋸状の葉っぱは葉っぱの目に見えるその特徴に・・・ 宮本百合子 「リアルな方法とは」
出典:青空文庫