・・・ もっと解りやすく云えば、党派心がなくって理非がある主義なのです。朋党を結び団隊を作って、権力や金力のために盲動しないという事なのです。それだからその裏面には人に知られない淋しさも潜んでいるのです。すでに党派でない以上、我は我の行くべき・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ 自分が正直に働いてい、従って真逆荷車で村から出されるようなことにならないのは解り切っている筈なのに、其那気になるのが植村の婆さんには我ながら情けなかった。癪にさわると思っても、何だか淋しい、沢や婆を村に置きたい心持がのかない。植村の婆・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・ まあ、真個にお互によく解り合って、よいところを信じ合った時ほど、人の心が晴々と空のように成ることはありませんでしょう。 政子さんと芳子さんとは、その小さい子供だった時の通りの心持になって遊びました。 暖い卵色の太陽が、二つぴっ・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
・・・一方から云えば、解り切った事だと云えるだろう。けれども、自分は、そう雑作なく解り切った事だとは、自分に対して云い切れない。なかなか容易な事で、本当の処へは行けないものだと思う。少くとも自分は、小理屈や負惜しみ等で胡麻化し切れない本然な力の爆・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
情けないことだが、一時のこととしても親に左様ならという覚悟をするしかないでしょう。その上、根気よく互に解り合おうとする真心を失わずにやって行く。〔一九二四年十月〕 宮本百合子 「結婚に際して親子の意見が相違した場合は」
・・・どうも軽いアイロニィは解りませんね。ここで笑えと云ってやるサクラが必要なのだ。民衆というものはそういうことを云ってやらないとね、反対に解釈されてはちょっと困るからね。 これら三人の、フランス文学者、同じ系統の作家の右のような座談が、フラ・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・冷蔵庫、野菜貯蔵箱などは、解り切った必要品で、置かれるべき場所も、云うほどのことはありませんでしょう。 風呂場は、私共にとって、決して、等閑に附せられないものです。せっせと集注して何かをし、一風呂あびようと云って、程よい・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・そして、そういう孤立的な少数の女性は、一人や二人しんから解り合う友もない程、女性の世界は狭小で未熟である、自分の生れた国の乏しさを歎くより、とかく孤立の程度を自己の卓越の程度と同一視する。侘しい限りだ。 私は、四五年来、何処からかいつか・・・ 宮本百合子 「大切な芽」
・・・ ついこの間までは、まるで解りそうもなかった、大変難かしそうだと思っていた本も、読もうとさえすれば、必ず或る程度までは理解される。 まるで、彼女は脳髄がいいスポンジのような心持がせずにはいられなかった。たくさん読み、たくさん考えてい・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・けれ共此頃、彼の心に湧いて居た事々が僅かながら解りかけて来た様な心持で種々考えて見ると、彼の死は非常に平穏な形式に依った一種の自滅ではなかったかと云う事を考えさせられる。 誰も私に云ったのでも注意したのでもない。 けれ共私はそう感じ・・・ 宮本百合子 「追憶」
出典:青空文庫