・・・ ゆきあたりばったりの万人を、ことごとく愛しているということは、誰をも、愛していないということだ。」 Kは、私の袖をひく。私の声は、人並はずれて高いのである。 私は、笑いながら、「ここにも、僕の宿命がある。」 湯河原。下車。・・・ 太宰治 「秋風記」
・・・が開かれたので出かけて行って、行き当たりばったりに会の係りの人に先日の柱作りの品種を聞いてみたがわからない。そのうちに、あれはたしか横浜のS商会の出品だったから、あちらの同商会の出張所で聞いてみたらいいだろうと教えてくれる人があった。それで・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・何か大きい重いものが、遠くの空からばったりかぶさったように思われましたのです。それでも何気なく申されますには、(なるほど立派なもんだ。あまりよく出来てなんだか恐いようだ。この天童はどこかお前に肖 須利耶さまは童子をふりかえりました。・・・ 宮沢賢治 「雁の童子」
・・・ ブドリは、泣いてどなって森のはずれまで追いかけて行きましたが、とうとう疲れてばったり倒れてしまいました。二 てぐす工場 ブドリがふっと目をひらいたとき、いきなり頭の上で、いやに平べったい声がしました。「やっと目がさ・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・そして草に足をからまれてばったり倒れました。そこは林に囲まれた小さな明地で、小猿は緑の草の上を、列んでだんだんゆるやかに、三べんばかり廻ってから、楢夫のそばへやって来ました。大将が鼻をちぢめて云いました。「ああひどかった。あなたもお疲れ・・・ 宮沢賢治 「さるのこしかけ」
・・・息がつづかなくなってばったり倒れたところは三つ森山の麓でした。 土神は頭の毛をかきむしりながら草をころげまわりました。それから大声で泣きました。その声は時でもない雷のように空へ行って野原中へ聞えたのです。土神は泣いて泣いて疲れてあけ方ぼ・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・又走りました。又ばったりと倒れました。おかしいと思ってよく見ましたら、そのすずめのかたびらの穂は、ただくしゃくしゃにもつれているのじゃなくて、ちゃんと両方から門のように結んであるのです。一種のわなです。その辺を見ますと実にそいつが沢山つくっ・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・預金封鎖の強化と失業におびやかされて、芝居ずきの人も手当りばったりに金を出さなくなったわけです。本やでも同じことが云われはじめました。本当にいい本必要な本しか売れにくくなったと。 ここに、生活の条件とぴったりあった人の考えかた、判断とい・・・ 宮本百合子 「朝の話」
・・・けれども一九三〇年の春以来、ソヴェトの作家たちは、それを実現するにやや手当りばったりであった。 国立出版所で組織したウラル地方の重工業生産地への見学団、ソヴェト作家団体総連合主催の工場、集団農場への文学ウダールニク。いずれの場合でも、た・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・それを手当りばったりでなく、様々の点で順をふんで入れます。だからその順にあなたは注意をなすって下さい。よまない本があってもかまわないから。読んでしまって返す本はそちらで郵送宅下げの手続きをして下さると、一等便利でしょうと思います。これは三日・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫