・・・ヤコフ・イリイッチはと見ると一人おいた私の隣りに大きく胡坐をかいてくわえ煙管をぱくぱくやって居た。へん、大袈裟な真似をしやがって、 と云う声がしたので、見ると大黒帽の上から三角布で頬被りをした男が、不平相にあたりを見廻して居・・・ 有島武郎 「かんかん虫」
・・・犬は、そのたんびに、ぴょいぴょいと上手にとって、ぱくぱく食べてしまいます。「おまいは、おれの店の肉をみんなくっていく気だな? さあ、もうこれでおしまいだ。そのかわり少々かたいぞ。」と、肉屋は最後に、出来るだけわるいところをどっさり切って・・・ 鈴木三重吉 「やどなし犬」
・・・ただ口をぱくぱくとやって鼻さきの疣をうごめかしただけのことであったのに。 鮒は滝壺のちかくの淵をあちこちと泳ぎまわった。胸鰭をぴらぴらさせて水面へ浮んで来たかと思うと、つと尾鰭をつよく振って底深くもぐりこんだ。 水のなかの小えびを追・・・ 太宰治 「魚服記」
・・・それからゆっくり腰からたばこ入れをとって、きせるをくわえてぱくぱく煙をふきだしました。奇体だと思っていましたら、また腹かけから何か出しました。「発破だぞ、発破だぞ。」とみんな叫びました。 一郎は手をふってそれをとめました。庄助は、き・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・それからゆっくり、腰からたばこ入れをとって、きせるをくわいて、ぱくぱく煙をふきだした。奇体だと思っていたら、また腹かけから、何か出した。「発破だぞ、発破だぞ。」とぺ吉やみんな叫んだ。しゅっこは、手をふってそれをとめた。庄助は、きせるの火を、・・・ 宮沢賢治 「さいかち淵」
・・・すると犬神はまるでこわい顔をして口をぱくぱくうごかしました。もうまるでタネリは食われてしまったように思ったのです。「小僧、来い。いまおれのとこのちょうざめの家に下男がなくて困っているとこだ。ごち走してやるから来い。」云ったかと思うとタネリは・・・ 宮沢賢治 「サガレンと八月」
・・・みんなはびっくりしてぱくぱく会長さんの袖を引っぱって無理に座らせました。 すると山男は面倒臭そうにふところから手を出して立ちあがりました。「ええ一寸一言ご挨拶を申し上げます。今晩はあついおもてなしにあずかりまして千万かたじけなく思います・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
・・・一番右はたしかラクシャン第一子まっ黒な髪をふり乱し大きな眼をぎろぎろ空に向けしきりに口をぱくぱくして何かどなっている様だがその声は少しも聞えなかった。右から二番目はたしかにラクシャンの第二子だ。長いあ・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
出典:青空文庫