・・・を書いて以来今日までにおいては、諸家の批判があったにかかわらず、他の見方に移ることができないでいる。私はこの心持ちを謙遜な心持ちだとも高慢な心持ちだとも思っていない。私にはどうしてもそうあらねばならぬ当然な心持ちにすぎないと思っている。・・・ 有島武郎 「想片」
・・・ こころ満ちたる者は親しみがたしといえば、少し悪い意味にとらるる恐れがあるけれど、そういう毒をふくんだ意味でなく公明な批判的の意味でみて、人生上ある程度以上に満足している人には、深く人に親しみ、しんから人を懐しがるということが、どうして・・・ 伊藤左千夫 「去年」
・・・更ければ更けるほど益々身が入って、今ではその咄の大部分を忘れてしまったが、平日の冷やかな科学的批判とは全く違ったシンミリした人情の機微に入った話をした。二時となり三時となっても話は綿々として尽きないで、余り遅くなるからと臥床に横になって、蒲・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・しかし、要求を心の中に持つ場合があっても、冷かに批判的にお母さんを見るようなことはない。いつになっても、子供には、自分のお母さんが、絶対なものに見えるのであります。そして、それがほんとうと思われるのであります。 殊に、幼児の時分には、お・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
・・・ これは、一面に、読者層の中心がこれまで知識階級であり、その批判もまた知識階級によってなされたがためであるが、今日の批判は、多数の無知識階級であり、そのためには、彼等に分り易く書かなければならぬというのであります。 多くの大衆作家が・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・自分はまだそのときカントの第二批判を知らなかったが、自分のたましいの欲するところはとりもなおさずカントの至完善の要請であったのである。人間の倫理的養成がいかにわれらの禀性に本具しているかはこれでも思いあたるのである。その青春時代学芸と教養と・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・予言者には宇宙の真理とひとつになったという宗教的霊覚がなければならぬのは勿論であるが、さらに特に己れの生きている時代相への痛切な関心と、鋭邁な批判と、燃ゆるが如き本能的な熱愛とをもっていなければならない。普通妥当の真理への忠実公正というだけ・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ これらの戦争に関連した諸々の際物的流行は、周知の如く、文学作品として、歴史の批判に堪え得なかったばかりでなく、当時の心ある批評家から軽蔑された。第三章 日清戦争に関連して ―独歩の「愛弟通信」と蘆花の「不・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・自分は自分の感情思想趣味があって、そしてその自分の感情思想趣味を以て実社会を批判して書いたのであるという事を認めなければならんのであります。 下手の長談義で余り長くなりますから、これまでに致して置きます。・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・この時代の人は大概現世祈祷を事とする堕落僧の言を無批判に頂戴し、将門が乱を起しても護摩を焚いて祈り伏せるつもりでいた位であるし、感情の絃は蜘蛛の糸ほどに細くなっていたので、あらゆる妄信にへばりついて、そして虚礼と文飾と淫乱とに辛くも活きてい・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
出典:青空文庫