・・・それらの人達が自分を正しい者としようとして論敵マルクスに加える誹謗と、マルクスを最大の敵とみるブルジョア社会とは、カールにあびせられるだけの雑言をあびせつづけた。それらもイエニーの明るく暖い心持を傷つけることは出来なかった。いつの間にかイエ・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・即ち、その誹謗が実質的な価値は持って居ないと分りつつ尚不快である如く、或る賞揚や尊敬は、又其の実質が如何に低いかを知りつつ、又或る淡い愉快と、由づけとを感じないわけには行かないということなのである。 小さい魂や、浅薄な動機からの追従も、・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
・・・文学上のその対立物が目前で蒙った破壊の有様の目撃は、知識人としての心理に於て、それを誹謗した作家たちにも不安と動揺とをもたらさずにいなかったことは明らかである。 当時叫ばれた文芸復興の声は、プロレタリア文学の陣営に属していた人々の間から・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・共産党員は、永い抑圧の歴史の中で沢山の誹謗に耐えて来たのであったが、この事件に関係のあった当時の中央委員たちは、人間として最も耐えがたい、最も心情を傷められる誹謗を蒙った。人殺しとして扱われ、惨虐者として描き出され、法律は、法の無力を証明し・・・ 宮本百合子 「信義について」
日本の言葉に、大人気ない、という表現がある。誰の目から見てもあんまり愚劣だと思われることがらや、衆目が、そこに誹謗を見とおすような言動に対して、まともにそれをとりあげたり、理非を正したりすることは、日本の表現では大人気ない・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・このように、ソヴェト同盟という社会主義社会では、一人一人の男女市民がその能力・才能と生活経験において独特な幅と質とを賦与されているという事実を、しいて無視し、さげすみ、誹謗して自身の壊滅の素因をつくったのがナチスであった。 こんどの大戦・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・虚構誇大、事実をまげて検事裁判官、裁判所を誹謗し、演説会で宣伝する。これは侮辱、名誉毀損、恐喝、恐迫等の犯罪を構成する。適当な機会に断固たる処置をとりたい。数十名の弁護人ならびに三分の二の傍聴人により法廷を制圧している等の諸点をあげて示威し・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・変だと思うとき、ひとは、それが変だからこそ、誹謗に都合がよいとして、それをつかうだろうか。――まして代議士のやりあいではなく、文学について語る場合、平野氏が、軌道性なんとは変だ、おかしいと云いながら、評論家としての心の働きを、強引なその変さ・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
・・・そしてこれがプロレタリア文学運動誹謗の種子とされているけれども、この日本風な現象については日本風な専政支配の野蛮さと、大衆の生活に多様な階級的文化の組織がなかったこと、僅かに文化サークルが組織されかかっていたばかりであったことなどを考え合わ・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ 永年の間あらゆる誹謗でおさえて来た共産党の性質が、まだ人民層にすっかり理解されつくさない間に、人民の日常感情がそこまで民主的になってしまわない間に、社会党にも絶望させられた民衆のあきらめた一票を、いそいで保守に集めてしまおうとすること・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
出典:青空文庫