・・・ 助けてくれ インドの子供が悲鳴をあげたのは当り前だ。骸骨だ、そこへ現れたのは。 観客席はざわめく。 ――ラグナート! ラグナート! 泣かんばかりに腰をぬかしたウペシュを照してパッと電燈がついた。骸骨も消えた。 ラグナー・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・安寿の額に十文字に当てる。安寿の悲鳴が一座の沈黙を破って響き渡る。三郎は安寿を衝き放して、膝の下の厨子王を引き起し、その額にも火を十文字に当てる。新たに響く厨子王の泣き声が、ややかすかになった姉の声に交じる。三郎は火を棄てて、初め二人をこの・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・そうして、人馬の悲鳴が高く一声発せられると、河原の上では、圧し重なった人と馬と板片との塊りが、沈黙したまま動かなかった。が、眼の大きな蠅は、今や完全に休まったその羽根に力を籠めて、ただひとり、悠々と青空の中を飛んでいった。・・・ 横光利一 「蠅」
・・・苦痛のために烈しく悩んでいる女が、感覚を失って悲鳴をあげているとしか見えない。恐ろしい現実そのものなのである。彼女は舞台の上で全然裸になっているのだ。 ヘルマン・バアルは考え込んだ。デュウゼの芸は全く謎である。同じ椿姫をやってもベルナア・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫