・・・気分がいいと云ったって、結局豚の気分だから、苹果のようにさくさくし、青ぞらのように光るわけではもちろんない。これ灰色の気分である。灰色にしてややつめたく、透明なるところの気分である。さればまことに豚の心もちをわかるには、豚になって見るより致・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・その辺一ぱいにならんだ屋台の青い苹果や葡萄が、アセチレンのあかりできらきら光っていました。 亮二は、アセチレンの火は青くてきれいだけれどもどうも大蛇のような悪い臭がある、などと思いながら、そこを通り抜けました。 向うの神楽殿には、ぼ・・・ 宮沢賢治 「祭の晩」
・・・ 太陽は一日かゞやきましたので、丘の苹果の半分はつやつや赤くなりました。 そして薄明が降り、黄昏がこめ、それから夜が来ました。 まなづるが「ピートリリ、ピートリリ。」と鳴いてそらを通りました。「まなづるさん。今晩は、あた・・・ 宮沢賢治 「まなづるとダァリヤ」
・・・ この初期の二つの評論にはっきりあらわれているように階級の歴史的経験を、自身の実感としないではいられなかった著者が「評価の科学性」からのち、益々解放運動とその文学運動の中心課題にてい身してゆくにつれ、論策も主としてプロレタリア文化・文学・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・対象の含んでいる種々の複雑な価値についてよく考え理解した上で、そこに諷刺のおさえがたい横溢を表現してゆくという製作の態度よりは、寧ろ小熊秀雄の才分の面白さ、という周囲の評価の自覚において諷刺の対象への芸術家としての歴史的な責任という点は些か・・・ 宮本百合子 「旭川から」
・・・が、芸術化の過程が一条件としてもっている諸現象の評価、そのより特徴的な方向の取捨選択の必要を、「現実を歪曲する」権利という表現で強調していることは、理解の混乱をひきおこすと思う。更に、「ルポルタージュなるものは『物が人をうごかす』という唯物・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・ ドイツでは、大層盛大なワグナア祭典が行われていたり、ゲーテやシラーについて政府としての評価が語られたりしているようだ。 文化に対する理解がそこにあるとされているが、そういう国では現在青年群に与える読みものとしてそういう古典を整頓し・・・ 宮本百合子 「明日の実力の為に」
・・・私は氷菓を一片舌にのせた。その途端、澄み渡った七月の夜を貫いて、私は何を聞いたろう! 私は、極めて明瞭に男の声を鼓膜から頭脳へききとった。「アイ、ラヴ、ユー」 ――困ったことに、私の腹の底から云いようない微笑が後から後から口元めがけ・・・ 宮本百合子 「三鞭酒」
・・・ 皿の後に皿が出て、平らげられて、持ち去られてまた後の皿が来る、黄色な苹果酒の壺が出る。人々は互いに今日の売買の事、もうけの事などを話し合っている。彼らはまた穀類の出来不出来の評判を尋ね合っている。気候が青物には申し分ないが、小麦には少・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・読んで独り自ら評価して居る。ただこの評価は思想を同じゅうして居ないものの評価で、天晴批評と称して打出して言挙すべきものでないばかりだ。しかし筆の走りついでだから、もう一度主筆に追願をして、少しくこの門外漢の評価の一端を暴露しようか。明治の聖・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫