・・・清潔であって生々とした美感に溢れた作を生むということこそ、松山文雄さん、前島ともさんお二人の芸術家としての念願でありましょう。そして私達友人のひとしき願いもそこにあります。未来のために与えられる一つの援助は、過去に向って与えられる賞讚よりも・・・ 宮本百合子 「健康な美術のために」
・・・とかいう観念的な、文学の美観と思われてるものにとびついてしまう傾向がある。 個々の文学研究会は、狭いそこだけの興味にとらわれる傾向がつよく、例えばラップ全線が大衆とともにベズィメンスキーの「射撃」の批判で燃えていたとき、秩序をもってその・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・あの壁画が感動的であるのは、画面の素晴らしさが、わたしたちに人間のもち得る美感の高さ、深さを、まざまざとした生命感で直感させることであった。法隆寺の火事で壁画が滅茶滅茶にされたことは、人々に何となし生命あるものの蒙った虐待を感じさせ、ショッ・・・ 宮本百合子 「国宝」
・・・だが、プロレタリアートの現実的な身持女が、何かの美感の対象となり得たことがかつてあるか?「身持ちの神さん」は、東西ともに既に古典的な貧の悲しき漫画材料だ。ブルジョア社会制度の下のプロレタリアート数千万の女性にとって、母性は彼女らにより生き易・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・それも、或る種の娘さんの性格や感情には一つの快感であるのかもしれないけれども、そこには極めて微妙な女性の被虐的美感への傾倒も感じられなくはない。能の、動きの節約そのものの性質のなかには、明らかに日本の中世の社会生活からもたらされた被虐性、情・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・が、特にその芸術におけるリアリティーの境地や美感が、所謂科学的な要素を全く含んでいないで、現と幻の境をゆくが如き雰囲気であることが、文学に同じ日本的なるものを愛するとしてもその問題と作品との政論化に賛同しかねていた作家層と読者とを広くとらえ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・より合う心の近さにつれて二つの唇が触れ合おうとしてしかし触れず、互の眼をながめ合ってその瞬間のすぎる風情には、観ていて背筋のひきしまるような美感があふれた。そしてそれは愛の感覚に直接迫るものだった。私たちの新しい芸術で性感は美術の一種として・・・ 宮本百合子 「さしえ」
・・・に流れ溢れている生活的な美感。「銀鱗」も、北国の五月、にしんの月の五月、まずしき生活の子供たちが生命のかぎり食べて肥ゆるなつかしき五月を溌剌とうたっている。暖くきらめく作者の感動は、「冷雨」において苦悩が 衆生のものでなくして・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・そして、最も興味あることは、かような健康な自然との関係がとり戻されたとき、私たちはその自然の中に人間の進んで来た足どりをまざまざと感じることで、ますます美感を複雑にし、豊かな喜悦を感じることである。今日のソヴェト文学作品のあるものは、「私は・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・青い葉の菖蒲に紫の花が咲いているのを代赭色の着物を着た舎人が持って行く姿があざやかであるとか、月の夜に牛車に乗って行くとその轍の下に、浅い水に映った月がくだけ水がきららと光るそれが面白い、と清少納言の美感は当時の宮廷生活者に珍しく動的である・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
出典:青空文庫