・・・日本の近代文学にフランス文学がどのように影響しまた風土化されたかということ迄を考えないひとでも明治以来、日本の文学愛好者の心情に、フランスの作品は常に一つの親愛な存在として感じられている。そこに素朴な空想が加えられているにしても、フランスと・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・電気の本質について知っているより遙により尠く、祖先の生活と文学との発生の姿、推移の相を貫く諸原則を知らされているにすぎず、漠然と、寧ろ風土的に日本文学の味を知らされているのである。「もののあはれ」ということは佐藤春夫氏の今日的文学の核を・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・働きつつ学びたいと希望し、美しさとたのしみと勇気の源泉をなじみふかい母国の風土と生活のたたかいのうちに発見し、それを文学に絵画に、映画に音楽に再現し、発展させてゆこうとする熱意を、わたしたちでない誰がその体の内に熱く感じているというのだろう・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・また、作者自身が、賢く第三者の評言をうけいれて、そのマイナスの意味をもつ特徴は自分が育って今も住んでいる東北地方の陰鬱な風土の影響であろうと自省しているところに、この問題を真に文学上発展させるモメントの全部があるとも考えられない。 なぜ・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・人間がそこで生れ、育ち、働き、老い、而して生涯を終る環境、地方風土としての自然をこまかく観察し、描いている。雪の降りよう、作物の育ちよう、そこに生える雑草や虫の生活を眺めることは、そこで暮している人々の生活にある様々の風俗・習慣等の観察から・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・ まるで、風土文物の異った封建時代の王国の様に、両家の子供をのぞいた外の者は、垣根一重を永劫崩れる事のない城壁の様にたのんで居ると云う風であった。 けれ共子供はほんとに寛大な公平なものだとよく思うが、親父さんに、「おい又行く・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・封建時代の日本人がその社会生活から慣習づけられていた感情抑制の必要、美の内攻性及び日本の建築、家具什器の材料に木、紙、竹、土類を主要品とした過去の日本の風土的特徴等が、「さび」を語った場合とりあげられなければならないであろう。 仏教の思・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・謂わば、条件のよくない風土に移植され、これ迄伸び切ったこともない枝々に、辛くも実らしいものをつけた果樹が、第二次世界大戦の暴風雨によって、弱いその蔕から、パラパラと実を落されたと云えないであろうか。これ迄のフランス文化が自身の古い土壌の上で・・・ 宮本百合子 「よもの眺め」
・・・ 大槻正男君の話によると、京都の風土は植物にとって非常に都合のよいものであるという。素人目にもそれはわかる。水の豊富なこと、花崗岩の風化でできた砂まじりの土壌のことなどは、すぐ目についてくる。ところでその湿気や土壌が植物とどういうふうに・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
・・・少しく立派な街ならば街路樹は風土相応の大木となっている。また大木とならなければ美しい街になることはできぬのである。街路から電線を取り除くことが不可能であるならば、電線は街路樹の枝の下に来べきものであって、梢を抑えるべきものではない。従って街・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫