・・・しかし法華経信者の母は妻の言葉も聞えないように、悪い熱をさますつもりか、一生懸命に口を尖らせ、ふうふう多加志の頭を吹いた。……… × × × 多加志はやっと死なずにすんだ。自分・・・ 芥川竜之介 「子供の病気」
・・・赤い顔でふうふう息を弾ませ、酒をのんでいると一眼でわかった。 あとで聞いたことだが、その人はその日社がひけて、かねての手筈どおり見合いの席へ行こうとしたところを、友達に一杯やろうかと誘われたのだった。見合いがあるからと断ればよいものを、・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・かれの言いぶんに拠れば、字義どおりの一足ちがい、宿の朝ごはんの後、熱い番茶に梅干いれてふうふう吹いて呑んだのが失敗のもと、それがために五分おくれて、大事になったとのこと、二人の給仕もいれて十六人の社員、こぞって同情いたしました。私なども編あ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・雨のため、部屋の窓が全部しめ切られて在るので、蒸し暑く、私は酒が全身に廻って、ふうふう言い、私の顔は、茹蛸のように見えたであろう。いけない。こんな工合では、いよいよ故郷の評判が悪くなる。私のこんな情ない有様を、母や兄が見たなら、どんなに残念・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・先生は、六畳間のまん中に、ふんどし一つで大あぐらをかき、ふうふう言って、「これは、どうにもひどい茶会であった。いったい君たちは乱暴すぎる。無礼だ。」とさんざんの不機嫌である。 私たちは三畳間を、片づけてから、おそるおそる先生の前に居・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・ 馬は汗をかいて黒く光り、鼻からふうふう息をつき、しずかにだくをやっていた。乗ってるものはみな赤シャツで、てかてか光る赤革の長靴をはき、帽子には鷺の毛やなにか、白いひらひらするものをつけていた。鬚をはやしたおとなも居れば、いちばんしまい・・・ 宮沢賢治 「黄いろのトマト」
・・・(そら、新聞紙を尖ったかたちに巻いて、ふうふうと吹くと、炭からまるで青火が燃える。ぼくはカリメラ鍋に赤砂糖を一つまみ入れて、それからザラメを一つまみ入れる。水をたして、あとはくつくつくつと煮ほんとうにもう一生けん命、こどもはカリメラのこ・・・ 宮沢賢治 「水仙月の四日」
・・・そのうち授業のかねがなって慶助は教室に帰って来遠くからキッコをちらっとみましたが、またどこかであばれて来たとみえて鉛筆のことなどは忘れてしまったという風に顔をまっかにしてふうふう息をついていました。「わあい、慶助、木ペン返せじゃ。」キッ・・・ 宮沢賢治 「みじかい木ぺん」
・・・ 必ずそのときには悪魔か神かに突きあたってぶらぶらしてしまうより方法はないが、何かかけ声のようなものをかけ、一飛びに無理をそのまま捻ぢ倒してしまってふうふうという。つまりそのときは明らかに自分が負かされてしまっているのだ。それを明瞭に感・・・ 横光利一 「作家の生活」
出典:青空文庫