・・・ 要するに西鶴が冷静不羈な自分自身の眼で事物の真相を洞察し、実証のない存在を蹴飛ばして眼前現存の事実の上に立って世界の縮図を書き上げようとしている点が、ある意味で科学的と云っても大した不都合はないと思われる。 科学者にも色々の型・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・しかしとにかくそういう種類の考えも、少なくも一つのヒントとしては役立つであろうと思うので、不謹慎のそしりを覚悟してついでに付記する次第である。 週期的ではないが、リーゼガング現象といくぶん類似の点のあるのは、モチの木の葉の面に線香か炭火・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・この機会についでながら付記しておく次第である。 一 腹の立つ元旦 正月元旦というときっときげんが悪くなって苦い顔をして家族一同にも暗い思いをさせる老人があった。それは温厚篤実をもって聞こえた人で世間ではだれ一人非・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 附記。空中の塵埃に関して述ぶべき物理的の事項はなお多数にある。例えば塵埃に光波が当った時に、光電効果のような作用電子が放散され、それが高層空気の電離を起す事、それが無線電信の伝播に重大な関係を持ち得る事、あるいは塵が空中の渦動によ・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・一国の首都がその権勢と富貴とに自から蒐集する凡ての物は、皆ここに陳列せられてある。われわれは新しい流行の帽子を買うためにも、遠い国から来た葡萄酒を買うためにも、無論この銀座へ来ねばならぬが、それと同時に、有楽座などで聞く事を好まない「昔」の・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・一国の首都がその権勢と富貴とに自から蒐集する凡ての物は、皆ここに陳列せられてある。われわれは新しい流行の帽子を買うためにも、遠い国から来た葡萄酒を買うためにも、無論この銀座へ来ねばならぬが、それと同時に、有楽座などで聞く事を好まない「昔」の・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・モオリスは現代の装飾及工芸美術の堕落に対して常に、趣味 Got と贅沢 Luxe とを混同し、また美 Beaut と富貴 Richesse とを同一視せざらん事を説き、趣味を以て贅沢に代えよと叫んでいる。モオリスはその主義として芸術の専門的・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・モオリスは現代の装飾及工芸美術の堕落に対して常に、趣味 Got と贅沢 Luxe とを混同し、また美 Beaut と富貴 Richesse とを同一視せざらん事を説き、趣味を以て贅沢に代えよと叫んでいる。モオリスはその主義として芸術の専門的・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・ここに附記していう。岡鬼太郎君は近松の真価は世話物ではなくして時代物であると言われたが、わたくしは岡君の言う所に心服している。 西鶴の価を思切って低くして考えれば、谷崎君がわたくしを以て西鶴の亜流となした事もさして過賞とするにも及ばない・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・してみれば放縦不羈を生命とする芸術家ですらも時と場合には組織立った会を起し、秩序ある行動を取り、統一のある機関を備えるのである。私はこれを生活の両面に伴う調和と名づけて、けっして矛盾の名を下したくない。矛盾には違なかろうがそれは単に形式上の・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
出典:青空文庫