・・・ 俯向いて、我と我が口にその乳首を含むと、ぎんと白妙の生命を絞った。ことこと、ひちゃひちゃ、骨なし子の血を吸う音が、舞台から響いた。が、子の口と、母の胸は、見る見る紅玉の柘榴がこぼれた。 颯と色が薄く澄むと――横に倒れよう――とする・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ と暗く、含むような、頤で返事を吸って、「よく御存じで。」「二度まで、湯殿に点いていて、知っていますよ。」「へい、湯殿に……湯殿に提灯を点けますようなことはございませんが、――それとも、へーい。」 この様子では、今しがた・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・その下萌えの片笑靨のわずかに見えたる、情を含む眼のさりとも知らず動きたる、たおやかなる風采のさらに見過ごしがてなる、ああ、辰弥はしばし動き得ず。 折からこれも手拭を提げて、ゆるゆる二階を下り来るは、先ほど見たる布袋のその人、登りかけたる・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・と、「毒が入って居るぞ!」と、含むところありげな眼をした。「そんなこたない。俺れが毒みをみてやろう。」傍から大西が手を出した。「いや、俺れがやる。」 浜田は、さきに、ガブッと一と口飲んでみた。そして、大西に瓶を渡した。大西は・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・もとより私は畜犬に対しては含むところがあり、また友人の遭難以来いっそう嫌悪の念を増し、警戒おさおさ怠るものではなかったのであるが、こんなに犬がうようよいて、どこの横丁にでも跳梁し、あるいはとぐろを巻いて悠然と寝ているのでは、とても用心しきれ・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・という言葉が、懲役にでも服しているような陰惨な感じがして、これは「服務中」の間違いではなかろうかと思って、ひとに尋ねてみたが、やはりそれは「服役」というのが正しい言い習わしになっていると聞かされ、うんざりした事がある。「酒を飲みたいね。・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・一つ一つの画面断片の含むフィルムのコマ数、あるいはメートルであらわしたその長さ、あるいは秒で数えたその映写時間を決定しなければならない。そうしてそれらの断片が何個集まって一つの系列あるいはエピソードを成すかを決定してその全長を計算し、そうい・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ 時間の尺度の変更は、同時に、時間を含むあらゆる量の変更を招致することはもちろんである。まず第一に速度であるがこれは時間に逆比例する。運動量も同様である。しかし加速度となると時間の自乗に逆比例するから時間のほうが二倍に延びれば加速度は四・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・以上の所説は、一見はなはだしく詭弁をろうしたもののように見えるかもしれないが、もし、しばらく従来の先入観をおいて虚心に省察をめぐらすだけの閑暇を享有する読者であらば、この中におのずから多少の真の半面を含むことを承認されるであろうと信ずる。・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・この言葉の中には欧米学界の優越に対する正当なる認識と尊敬を含むと同時に、我国における独創的の研究の鼓吹、小成に安んぜんとする恐れのある少壮学者への警告を含んでいたのである。「どうも日本人はだめだ」と口癖のように言っていた、その言葉の裏にもや・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
出典:青空文庫