・・・というのは、当時の語学校はロシアの中学校同様の課目で、物理、化学、数学などの普通学を露語で教える傍ら、修辞学や露文学史などもやる。所が、この文学史の教授が露国の代表的作家の代表的作物を読まねばならぬような組織であったからである。 する中・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・最も普通の俳優はこんな時「それではあんまり不自然で引っ込みにくいから、相手になんとか言わせてくれ」と、作者に頼むのが例になっている。 ―――――――――――――――――――― 愛する友よ、あなたがもう返事をするに・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・これも物語などにありて普通の歌に用いざる語を用いたるほかに何の珍しきこともあらぬなり。最後に橘曙覧の『志濃夫廼舎歌集』を見て始めてその尋常の歌集に非ざるを知る。その歌、『古今』『新古今』の陳套に堕ちず真淵、景樹のかきゅうに陥らず、『万葉』を・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・その色はずいぶんさまざまだ。普通の焚火の焔なら橙いろをしている。けれども木によりまたその場処によっては変に赤いこともあれば大へん黄いろなこともある。硫黄を燃せばちょっと眼のくるっとするような紫いろの焔をあげる。それから銅を灼くときは孔雀石の・・・ 宮沢賢治 「学者アラムハラドの見た着物」
・・・役所は、小さな区役所から内閣まで、一度で用のすまないのが普通です。云ってみれば、これまでの私たちには、自分で自分がままならず、自分で自分のことがすっかり分ってもいなかったのです。従って、日本人の返事の曖昧さは、世界でおどろかれる特徴の一つと・・・ 宮本百合子 「新しい躾」
・・・ 然し東海道線は不通になっている。その混乱の裡に、用意なしには戻れない。入京は非常に困難らしいが、幸いなことに、私共は四日の午後に、何がなくとも、福井を出発する準備をしていた。米原から東京駅までの寝台券も取ってあった。それを信越線迂回に・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・その為めに普通教育より一段上の教育を受けさせて置こうとした。だから本人の気の向く学科を、勝手に選んでさせて置いて好いと思っているのであった。 ベルリンにいる間、秀麿が学者の噂をしてよこした中に、エエリヒ・シュミットの文才や弁説も度々褒め・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・然るに定右衛門の長男亀蔵は若い時江戸へ出て、音信不通になったので、二男定助一人をたよりにしている。その亀蔵が今年正月二十一日に、襤褸を身に纏って深野屋へ尋ねて来た。佐兵衛は「お前のような不孝者を、親父様に知らせずに留めて置く事は出来ぬ」と云・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・しかしまあ世間普通の好男子ですね。世間でおめかしをした Adonis なんどと云う性で、娘子の好く青年士官や、服屋の見本にかいてある男にある顔なのです。そこでわたくしは非常に反抗心を起したのです。どうにかして本当の好男子になろうとしたのです・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・初めに君の来たときには、何んだか跫音が普通の客とどこか違っていたように思ったんだが。――」と梶は呟くように云った。「あ、あのときは、おれ、駅からお宅の玄関まで足数を計って来たのですよ。六百五十二歩。」栖方はすぐ答えた。 なるほど、彼・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫