・・・ 現在、私の心を満し、霊魂を輝やかせ、生活意識をより強大にしている愛は、本質に於て不死と普遍とを直覚させています。 けれども、若し、明日、彼を、冷たい、動かない死屍として見なければならなかったら、どうでしょう! 心が息を窒めてし・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・自分がまだ十分の経験や常識をもっていない、という不安ばかりでなく、もっと広く、もっと深く、日本の女性全般が本当には何も分ってはいないのだ、という普遍的な頼りないこわさを感じているのではないだろうか。何も判らないという感じは在りながら、一方に・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・ 現代の悲劇というより、むしろ正劇は、個々の性格間の格闘というよりも拡大されて、人間理性の発展にあらわれてきた歴史と歴史のギャップ、相剋という普遍性をもつたたかいの記録に進んで来ている。日本の現代文学は、世界の現実としてのこれら日本の現・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・人間の本能は不変であるから、社会制度が、たとえどんなに理想的に変ったって、人間が人間である以上は変らないというのです。生存競争の慾望、所有慾、そういうものがある以上、社会制度が変っても人間は変らないとおっしゃる。ここのところを、私たちは本当・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・けれども人類の歴史は常に進歩に向って動いて来ているので、その間に生じる鋭く深刻な矛盾で、当面の生活にどんな障害や停滞や退歩がおこり、生活の低下が生じたとしても、私たちがそれをのりこえてゆく努力の方向は不変に進歩への方角の探究でなくてはならな・・・ 宮本百合子 「その先の問題」
・・・ プレハーノフの女弟子、ソヴェト同盟のマルクス主義機械論的修正派の最も有名な代表者アクセリロードは、「トルストイの創作を批評するのにもスピノザの哲学を分析する際にも、彼女は永久不変の道徳法から出発している。彼女は、新カント派と多くの・・・ 宮本百合子 「婦人作家は何故道徳家か? そして何故男の美が描けぬか?」
・・・レオニード・グレゴリウィッチが彼女の夫であると同じそれは不変の事実だ。ああ、リョーニャ! ダーリヤ・パヴロヴナの素朴な顔はその名に燃える。彼と、今自分の体の中で次第に重く、何とも云えぬ可愛いさで重く重くと育って来る嬰児とに向って、彼女の心臓・・・ 宮本百合子 「街」
・・・ある人がかつて俳諧は普遍の徳があるとか云ったが、子規の一派の永く活動しているのは、この普遍の徳にでも基いて居るものであろう。予が主筆のために説かんと約した鴎外漁史の事は此に終る。しかし予は主筆に、予をして猶暫く語らしめん事を願う。想うにこの・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・ 家康に『貞観政要』を講義した藤原惺窩は、いかなる特殊の内にも普遍の理が存することを力説した学者であった。海外との交通の手助けなどもしている。そう眼界の狭い学者であったとは思えない。彼の著として伝わっている『仮名性理』あるいは『千代もと・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・最も特殊なものが真に普遍的になる。そうでない世界人は抽象である。混合人は腐敗である。――しかも私は真に日本的なものを予感するのみで、それが何であるかを知らない。私は我々の眼前にそれが現われていると信じたくない。なぜなら私は悪しき西洋文明と貧・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
出典:青空文庫