・・・夕刊を見ながら私は断水の不平よりはむしろ修繕工事を不眠不休で監督しているいわゆる責任のある当局の人たちの心持ちを想像して、これも気の毒でたまらないような気もした。 このような事のある一方で、私の宅の客間の電燈をつけたり消したりするために・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
・・・堪え兼ねてボーイを呼んで大きな氷塊を取寄せてそれを胸に載せて辛うじて不眠の一夜を過ごした。その時に氷塊を持ってぬっと出現した偉大なニグロのボーイの顔が記憶に焼きつけられて残っている。それから、ウェザー・ビュローの若い学者と一緒にあるいた。あ・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・昼夜白熱して夜空にまで広告のテレヴィジョンを映している不眠の都市。ウォール街を中心に渦巻く宣伝の都市ニューヨークの旅で迎える三月八日平和のための国際婦人デーは労働組合からの婦人代表もふくむこれら十名の日本婦人たちに何を考えさせるだろうか。・・・ 宮本百合子 「この三つのことば」
・・・ 千世子が下で、疲れるんだって、と云った時、微妙な一種の表情があったので、なほ子は、屡々ある不眠の結果だろうと思っていた。まさ子は数年来糖尿病で、神経系統に種々故障があるのであった。「――じゃ今日だけ一寸臥ていらっしゃるんじゃなかっ・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
出典:青空文庫