・・・ すると不意に流れの上の方から、 「ブルルル、ピイ、ピイ、ピイ、ピイ、ブルルル、ピイ、ピイ、ピイ、ピイ」とけたたましい声がして、うす黒いもじゃもじゃした鳥のような形のものが、ばたばたばたばたもがきながら、流れて参りました。 ホモ・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・だんだん上にのぼって行って、とうとうそのすりばちのふちまで行った時、片手でハンドルを持ってハンケチなどを振るんだ。なかなかあれでひどいんだろう。ところが僕等がやるサイクルホールは、あんな小さなもんじゃない。尤も小さい時もあるにはあるよ。お前・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・大将「次は果樹整枝法その三、カンデラーブル。ここでは二枝カンデラーブル、U字形をつくる。この時には両肩と両腕とでUの字になることが要領じゃ、徒にここが直角になることは血液循環の上からも又樹液運行の上からも必要としない。この形になることが・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・長い頸を天に延ばすやつ頸をゆっくり上下に振るやつ急いで水にかけ込むやつ実にまるでうじゃうじゃだった。「もういけない。すっかりうまくやられちゃった。いよいよおれも食われるだけだ。大学士の号も一所になくなる。雷竜はあんまりひ・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・けれども、笑うだけ笑って仕舞うと、彼女は、足をぶらぶら振るのもやめ困った顔で沈んで仕舞った。「もうじき大晦日だのにね。――どうするおつもり?」 彼女は、歎息まじりに訴えた。「今其那に女中なんかないのよ。貴方男だから好きになすった・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・と手を出すと、黒いぬれた鼻をこすりつけて、一層盛に尾を振る。「野良犬ではないらしいわね。どうなすったの?」「つい其処に居たんだ。通る人だれの足許にでもついてゆきそうにして居た。ね、パプシー」「いきなりつれていらしった・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・ 蝶、蜂、蟻などの物語は第十話第十一話にあるが、この章へ来てフランスのアンリ・ファーブルの「昆虫記」を思い出さない読者はおそらく一人もないだろう。ファーブルの昆虫記は卓抜精緻な観察で科学上多くの貢献をしているし、縦横に擬人化したその描写・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ 指の先まで鼓動が伝わって来る様で旅費のお札をくる時意くじなくブルブルとした。 今頃私が立つ様になろうとは思って居なかった祖母は私に下さるお金をくずしにすぐそばの郵便局まで行って下すった。 四角い電燈の様なもののささやかな灯影が・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・世界の一般恐慌切りぬけ策として、帝国主義日本は他のブルジョア国とともに第二次世界戦争を計画し、その口火として近くソヴェト同盟侵略戦争を始めようとしている。つまり、世界の勤労大衆の中からもり上って来る革命力ぶっ潰しの第一陣を日本の帝国主義が買・・・ 宮本百合子 「逆襲をもって私は戦います」
・・・五百十五頁の『キング』一冊に五枚一組袋入りの額面用名画というブルジョア画家の画の複製が景品について来た。 成程、この画は壁の破れたところに貼っても一寸体裁がよかろう。壁が破れても修繕はしてくれず、家賃ばかり矢の催促にくる大家に対して、借・・・ 宮本百合子 「『キング』で得をするのは誰か」
出典:青空文庫