・・・今竹内栖鳳やその他無カンサ組の文展招待展というのも別コにあって、殆どどれがどれやら素人に分らない位です。招待展評に曰く「文展の瘤展」「愚作堂に満つ」云々。この絵が大臣賞を貰っているのは大変面白いことです。これは普通の落選もある文展の方です。・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
千人針の女のひとたちが街頭に立っている姿が、今秋の文展には新しい風俗画の分野にとり入れられて並べられている。それらの女のひとたちはみな夏のなりである。このごろは秋もふけて、深夜に外をあるくと、屋根屋根におく露が、明けがたの・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
この秋文展と殆ど同時に関西美術展というのが開催された。 病気からすっかり丈夫にならないので、明治大正美術展も見られなかったし、このときも行かれず、残念に思った。新聞に代表的な作品の写真がのったなかに、上村松園の作品があ・・・ 宮本百合子 「「青眉抄」について」
・・・漱石の三四郎が、きょうの読者の感覚でみればかなり気障でたまらない美禰子という美しい人に、当時の文展がえりを散歩に誘われ、この辺の田端田圃のどこかの草原に休んで、美禰子が夕映を眺めながら謎のように迷える羊というひとりごとをくりかえすのをきいた・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・オランダ語を教えて遣ろうと云われるので、早くから少しずつ習った。文典と云うものを読む。それに前後編があって、前編は語を説明し、後編は文を説明してある。それを読んでいた時字書を貸して貰った。蘭和対訳の二冊物で、大きい厚い和本である。それを引っ・・・ 森鴎外 「サフラン」
・・・もちろんそれは文展についても言えることであり、すでに十何年の歴史を負っている事実でもあるから、今さらことごとしく問題にするには及ばないかも知れぬ。しかし僕の遠望観は、ぐるぐると回っている内に、結局この問題に帰着するのである。 何人も気が・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・ 文展の日本画を目安にして言えば、確かに院展の日本画には生気溌剌たる所があるかも知れない。しかし我々の要求するのはこの種の技巧上の生気ではない。奥底から滲み出る生命の生気である。この要求を抱いて院展の諸画に対する時、我らはその人格的香気・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫