・・・後の方の例を滅薙せんとする法規を改正し得ても、前者のような芽生の優生学上から見てのくされを如何ともなし難いところに、戦勝談からはもれている現実の力つよい示唆が潜んでいることを感じるのである。 近頃婦人ばかりの名を連ねて結成された二つ・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・ 出版取締に関して未だこまかい法規が定められなかった時代の新しき日本社会で、或る種の著作が官吏侮辱という理由で罰せられたということは、何と興味ある、特質的な現象であろう。今日の情勢で大きい役割を果している日本の官僚というものが、その発生・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
若し、今日の議会に、真実な価値と信頼とを認め得るとしたら、婦人の提出したい、第一の問題は、婦人参政権、法律的独立人格の承認に関してであると思います。種々な法規が、消極的意味に於て女性に不便であり或る時は不公平であるとしても・・・ 宮本百合子 「法律的独立人格の承認」
・・・ 十日には又寒い西北の風が強く吹いていると、正午に大名小路の松平伯耆守宗発の上邸から出火して、京橋方面から芝口へ掛けて焼けた。 続いて十一日にも十二日にも火事がある。物価の高いのに、災難が引き続いてあるので、江戸中人心恟々としている・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・尊き内的生命を放棄してただ懸命にすがる命の綱が一筋切れ二筋絶ち、まさに絶望に瀕している。社会主義の叫喚はたちまち響きわたる。「わが細き生命の綱を哀れめ、安全を保する太き綱を与えよ」と叫ぶ。冷ややけき世人は前世の因と説き運命と解き平然として哀・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫