・・・しかし私は議論というものはとうてい議論に終わりやすくって互いの論点がますます主要なところからはずれていくのを、少しばかりの議論の末に痛切に感じたから、私は単に自分の言い足らなかった所を補足するのに止めておこうと思う。そしてできるなら、諸家に・・・ 有島武郎 「想片」
・・・子美太白の才、東坡柳州の筆にあらずはいかむかこの光景を捕捉しえん。さてそれより塩竈神社にもうでて、もうこの碑、壺の碑前を過ぎ、芭蕉の辻につき、青葉の名城は日暮れたれば明日の見物となすべきつもりにて、知る人の許に行きける。しおがまにてただの一・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・以後の大戦の生活をも補足し、そうして、私の田舎臭い本質を窮めたいと思った。 私が東京に於いてはじめて発表した作品は、「魚服記」という十八枚の短篇小説で、その翌月から「思い出」という百枚の小説を三回にわけて発表した。いずれも、「海豹」とい・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・自分の非力を補足するために、かの二刀流を案出したとかいう話さえ聞いている。武蔵の「独行道」を読んだか。剣の名人は、そのまま人生の達人だ。 一、世々の道に背くことなし。 二、万ず依怙の心なし。 三、身に楽をたくまず。 四、一生・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・ この二つの錯覚の場合は映画の写像の、客観的には不安全な写実能力が、いかに多く観客の頭の中に誘発される連想の補足作用によって助長されているかを示す実例として注意さるべきものかと思われるのである。 十三 「世界の終わり」と・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ニュートンが一見捕捉しがたいような天体の運動も簡単な重力の方則によって整然たる系統の下に一括される事を知った時には、実際ヴォルテーアの謳ったように、神の声と共に渾沌は消え、闇の中に隠れた自然の奥底はその帷帳を開かれて、玲瓏たる天界が目前に現・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・ 不完全なる蓄音機から本物の音楽を聞き出そうとする人にとってもう一つの助けになるのは人間心理の特徴として知られた補足作用である。自分の文章の校正刷りを見る時に顕著な誤植を平気で読み過ごすと同じような誤謬が、不完全なレコードを完全に聞かせ・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・ どうも彼のいう事には順序というものがないから簡単に要領を捕捉するのが困難であるが、まあ例えばこういう事をいう。「空間の中にn個の点がある。そのおのおのの点から平均m本の線を引いて他のm個の点に結ぶ。そうすると合計nかけるのm本の線・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・格式に拘泥しない自由な行き方の誹諧であるのか、機知頓才を弄するのが滑稽であるのか、あるいは有心無心の無心がそうであるのか、なかなか容易には捕捉し難いように見える。しかしもし大胆なる想像を許さるれば、古の連歌俳諧に遊んだ人々には、誹諧の声だけ・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・ 多年藤原博士の心にかけて来られた渦巻に関する各種の現象でも、実にいろいろの不思議な問題が包蔵されているようであるが、現在までの物理学はまだそれらを問題として捕捉し解析の俎上に載せうるだけに進んでいないように見える。流体力学の専門家はそ・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
出典:青空文庫