・・・漠然として捕捉すべき筋が貫いておらん。しかし彼らから云うとこうである。筋とは何だ。世の中は筋のないものだ。筋のないもののうちに筋を立てて見たって始まらないじゃないか。どんな複雑な趣向で、どんな纏った道行を作ろうとも畢竟は、雑然たる進水式、紛・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・ 私は全くへりくだった心持でいわば私たちの知らなさの程度を明らかにすることで、このリストがいつか段々補足され質を高められたものとなり、いくらか有益な読書の手引きとなって若い婦人たちがそのより年若い弟妹たちに与えるにたえるものとなることを・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ヒューマニズムを日夜論じる当代日本の職業的知識代表者と、一般の勤労的知識人との間に、その形は極めて捕捉しがたい、だがはっきりと感じられる生活気分の疎隔がヒューマニズムの論をめぐっていつしか生じはじめたのであった。「知識階級は飽くまで知識・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 附記 大会速記が不備だったので補足整理しました。〔一九四九年二月〕 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・に対して、憤りをもって頭を高くもたげている伊藤整が、朝日に発表した文章の冒頭の数行にこめられている真実を、わたしは、この作者が近代的な小説の成立にふれてかいている「歯車の空転」に補足したいと思う。「既存の社会通念」の内容は複雑広汎であるけれ・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・「漂う泡沫のように捕捉し難い世界をつくる」と形容されているこの婦人作家が、世帯じみた現実的な部屋のことをさして書いたと私は考えにくい。ウルフは、観念の世界で、世俗の女とちがう独特な境地を獲得した自身について、部屋というものを全く一つの象徴と・・・ 宮本百合子 「夫婦が作家である場合」
・・・追記 この速記録は例によってわたしの早口から混乱したものになっていたので補足したと一緒に後半の通信活動の分を整理して殆ど新しく書きました。サークル活動が種々の問題を提起しているし、民主主義文学の成長の基盤が漠然と人民的とか労働者生活・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・そしてなぜ好きだか、いやだかと穿鑿してみると、どうかすると捕捉するほどの拠りどころがない。忠利が弥一右衛門を好かぬのも、そんなわけである。しかし弥一右衛門という男はどこかに人と親しみがたいところを持っているに違いない。それは親しい友達の少い・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・或時は何物かが幻影の如くに浮んでも、捕捉することの出来ないうちに消えてしまう。女の形をしている時もある。種々の栄華の夢になっている時もある。それかと思うと、その頃碧巌を見たり無門関を見たりしていたので、禅定めいた contemplatif ・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
出典:青空文庫