・・・パナマらしい帽子にアルパカの上衣を着て細身のステッキをさげている。小さな声で穏やかに何か云っていたが、結局別に新しい切符を出して車掌に渡そうとした。 二人の車掌が詰め寄るような勢いを示して声高にものを云っていた。「誤魔化そうと思ったんで・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・またそのころのやさ男が粉をふりかけた鬘のしっぽをリボンで結んで、細身のステッキを小脇にかかえ込んで胸をそらして澄ましている木版絵などもある。とにかくあのころ以後はずっと行なわれて今日に至ったものであろう。いずれにしても人間がみんな働くのに忙・・・ 寺田寅彦 「ステッキ」
・・・幽玄も、余情も、さびも、しおりも、細みもこの弦線の微妙な振動によって発生する音色にほかならないのである。古人が曲輪の内より取り合わせるか、外よりするかということを問題にしているのはやはりここの問題に関したものであると思われる。また付け合わせ・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・その寂といい、雅といい、幽玄といい、細みといい、もって美の極となすもの、ことごとく消極的ならざるはなし。ゆえに俳句を学ぶ者消極的美を唯一の美としてこれを尚び、艶麗なるもの、活溌なるもの、奇警なるものを見ればすなわちもって邪道となし卑俗となす・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・「ドッテテドッテテ、ドッテテド、 右とひだりのサアベルは たぐいもあらぬ細身なり。」 じいさんは恭一の前にとまって、からだをすこしかがめました。「今晩は、おまえはさっきから行軍を見ていたのかい。」「ええ、見て・・・ 宮沢賢治 「月夜のでんしんばしら」
・・・手入れの行届いたモーニングを着て、細身のケーンを持ちながら、日影のちらつく歩道の樹蔭を静かに行くのが彼の作品の後姿である。 去年の夏頃米国に来遊して間もなく“Saint's Progress”と云う四百頁余の長篇が出版されて六月から八月・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
出典:青空文庫