・・・それは雨の日の東京の大通りを歩いているときにしばしば経験させられることであるが、人造石を敷いた舗道が非常にすべりやすくなることがある。煉瓦やアスファルトの所はすべらないのに、適当に泥の皮膜をかぶった人造石だとなかなかよくすべる。それがおもし・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・オルダス・ハクスレーの短篇『若きアルキメデス』には百姓の子のギドーが木片の燃えさしで鋪道の石の上に図形を描いてこの定理の証明をやっている場面が出て来るのである。また相対性原理を設立したアインシュタインが子供のときに独りでこの定理を見付けたと・・・ 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
・・・ 銀座通りの両側の歩道を歩く人の細かな観察の結果からして、一つの統計的の結果をまとめ上げ、それから「平均人」の歩行経路を描き出すことも可能である。その結果から、「左側通行」の規則が、どの程度まで市民の頭にしみ込んでいるかを判断する一つの・・・ 寺田寅彦 「物質群として見た動物群」
アメリカのレビュー団マーカス・ショーが日本劇場で開演して満都の人気を収集しているようであった。日曜日の開演時刻にこの劇場の前を通って見ると大変な人の群が場前の鋪道を埋めて車道まではみ出している。これだけの人数が一人一人これ・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・ 五 上野のデパートメントストアの前を通ったら広小路側の舗道に幕を張り回して、中に人形が動いていた。周囲に往来の人だかりのするのを巡査が制していた。なんとなく直感的にその幕の中には人が死んでいそうな気がしたが、夕・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・刻茶を飲んだ家の女に教えられた改正道路というのを思返して、板塀に沿うて其方へ行って見ると、近年東京の町端れのいずこにも開かれている広い一直線の道路が走っていて、その片側に並んだ夜店の納簾と人通りとで、歩道は歩きにくいほど賑かである。沿道の商・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
・・・ 道路は市中の昭和道路などよりも一層ひろいように思われ、両側には歩道が設けられていたが、ところどころ会社らしいセメント造の建物と亜鉛板で囲った小工場が散在しているばかりで、人家もなく、人通りもない。道の左右にひろがっている空地は道路より・・・ 永井荷風 「元八まん」
・・・ここも平らで上等の歩道なのだ。ただ水があるばかり。「先生、あの崖のどご色変ってるのぁ何してす。」簡だ。崖の色か。〔あれは向うだけは土が落ちたんです。滑って。〕うん。あるある。これが裂罅を温泉の通った証拠だ。玻璃蛋白石の脈だ。・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・自分は歩道を相変らずてくる。てくる。―― だらだら坂を海岸の方へ下る。倉庫が並んでいる。レールが敷いてある。馬糞がごろた石の間にある。岸壁へ出て、半分倉庫みたいな半分事務所のような商船組合の前で荷馬車がとまった。目の前に、古びた貨物船が・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ 午後になると往来はだんだん混みはじめ、芸術座前の狭い通りは歩道一杯の人だ。みると芸術座の入口に特別はり札が出ている。 本日は労働者のためだけに開演する。 前もって職業組合から切符を渡されているモスクワ中の勤労者はこの芸術座ばか・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
出典:青空文庫