・・・僕は頭が熱くて痛くなった。ああ北海道、雑嚢を下げてマントをぐるぐる捲いて肩にかけて津軽海峡をみんなと船で渡ったらどんなに嬉しいだろう。五月十日 今日もだめだ。五月十一日 日曜 曇 午前は母や祖母といっしょに田打ち・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・咽喉へはいると急に熱くなるんだ。ああ、いい気分だ。もう一杯下さいませんか。」「はいはい。こちらが一ぺんすんでからさしあげます。」「こっちへも早く下さい。」「はいはい。お声の順にさしあげます。さあ、これはあなた。」「いやありが・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・ わたしはこの言葉をきいて、体が熱くなるような感じにうたれた。革命まではロシアの工場でも、日本の工場と同じようなひどい条件で女が搾られていたのである。 ドン国立煙草工場には自慢の托児所があり二百七十人ぐらいの子供の世話をやいている。・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・ 顔が熱くなって唇がブルブルして居る。 S子の顔を見るまでは落つけないのだから―― 今ベルがなるか今ベルがなるかと聞耳をたてて居る。 ジジー! ベルがなる。 私は玄関に飛び出す。 見るとS子ばかりじゃあなく、T子もA・・・ 宮本百合子 「秋風」
・・・打ちよせ 打ち返し轟く永遠の動きは鈍痲し易い人間の、脳細胞を作りなおすまいか。幸運のアフロディテ水沫から生れたアフロディテ!自ら生得の痴愚にあき人生の疲れを予感した末世の女人にはお身の歓びは 分ち与えられないのだ・・・ 宮本百合子 「海辺小曲(一九二三年二月――)」
・・・とん とん、と、胸に轟くこの響が、あれ等の裡に聴えましょうか。迫り、泣かせ、圧倒するリズムがあれから浸透して来ますか?ああ、私の望むもの、私の愛すもの其は、我裡からのみ湧き立って来るものだ。静に燃え、忽ちぱっとを・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・ 社会主義ソヴェト、万歳 メー・デー万歳 ウラーアァ 轟く歓呼の声の下で、動き出したぞ!「インターナショナル」の一際高い奏楽といっしょに、先ず先頭の赤旗が広場へ向って静かに繰り出した。 続いて、あっちの門からも! 合・・・ 宮本百合子 「勝利したプロレタリアのメーデー」
・・・ 臥て居た間自分の心に最も屡々現れた民族的蜃気楼は林籟に合わせ轟く日本の海辺の波と潮の香、日向の砂のぽかぽかしたぬくもりとこの素麺とであった。 勿論我々のトランクの中に そのデリケートにして白い東方の食料品は入れられてない。自分は青・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・から叫ばれるスターリンの激励演説とそれに応える数百万の勤労者の歓呼の声が轟くであろう。 諸君。われわれにもその確信と闘争に満ちたソヴェト同盟のプロレタリアの叫びが聴えるようではないか。よしゴルロフカ「労働宮」はまだわれわれのところに無い・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・「饂飩がまだあるなら、一杯熱くして寧国寺さんに上げないか。お寒いだろうから。」 戸川は自分の手を翳していた火鉢を、寧国寺さんの前へ押し遣った。 寧国寺さんはほとんど無間断に微笑を湛えている、痩せた顔を主人の方に向けて、こんな話を・・・ 森鴎外 「独身」
出典:青空文庫