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・・・風呂から這い出るころには、ぼっとして、幽霊だ。部屋へ帰って来ると、女は、もう寝ている。枕もとに行燈の電気スタンドがついている。」「女は、もう、ねむっているのか?」「ねむっていない。目を、はっきりと、あいている。顔が蒼い。口をひきしめ・・・
太宰治
「雌に就いて」
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・・・ 十時頃、冷えのしみとおったうすら寒さと眠たさとでぼっとしているところへ、紺服の陽にやけた労働係が一人の色の白い丸ぽちゃな娘をつれて来た。「しばらくここにいな」「房外かね」「そうだ」「さ、ねえちゃん、そこへ坐ってくれ。仲・・・
宮本百合子
「刻々」